Patricia Kopatchinskaja
バルトーク、リゲティ、エトヴェシュのヴァイオリン協奏曲3作に挑む!
〈正確無比〉を〈自由奔放〉の強烈な炎で燃やすと、パトリシア・コパチンスカヤの精密な炸裂が生まれる。モルドヴァ生まれの鬼才ヴァイオリニストが、20世紀のヴァイオリン協奏曲3作を録音。
「録音が終わったとき、もう私これで死んでもいいと思った!」と笑いながら振り返る難曲3題、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番にリゲティの協奏曲、そして今回のアルバムで指揮も担当する現代作曲家エトヴェシュの《セヴン》と、いずれも中東欧の作曲家たちが生んだ傑作だが…凄演だ。
「この3曲の音楽言語と構成にはフォークロアに由来するものがあるし、自然と知性とをつなげてゆく意志のようなものがあります」とコパチンスカヤ。知性の鋭さと本能的な躍動とを、凄まじい燃焼で昇華させる彼女、とりわけリゲティは鮮烈だ。「ここ百年で最も重要な協奏曲」と彼女も断言する傑作、微分音程まで駆使しながら、豊かな倍音と非和声的で豊かな響きの魅力を聴かせると共に、なにしろ演奏至難。楽器の可能性も拡張してみせるようだ。
「オーケストラの可能性も拡張していますよね。全員がソリストと同じレベルで闘い続ける必要がある」
興奮をかきたてずにおかない細かい変拍子が、鋭く繊細で熱い音世界を拓きながら、途中で木管奏者たちがオカリナに持ち替えたり(土が匂うような響きは、微分音程に敏感さを増した耳に必然を感じさせる)。「大蛇やワニと闘いながらジャングル突破するみたい(笑)。でも、様々な細かい石でできたモザイクのようなもので、全てがぴったり合わさった瞬間、初めて作品全体がゴゴゴゴゴ……とスター・トレックの宇宙船のように浮上してくるわけ!」
総譜には作曲者によるカデンツァ(独奏者が妙技を披露する箇所)も記譜されているが〈全曲の素材をもとにソリストによって作曲されてよい〉と註記されている。当然、原譜以上に凄まじい暴れぶり。
「全曲のモザイクを集めながら触発された即興も交えて。前の楽章のオーケストラに出てくるオカリナの真似をして歌ったり…ペーテルも『いいよ、いいよ! 君ならやると思ってたよ!』だって(笑)」
そのエトヴェシュの書いた《セヴン》も「バルトークと通じる非常にロジカルな作品ですし、その音楽からは、彼のとても優しく謙虚で素晴らしい人間性がみえてくる」と、作曲家自身の指揮によるこちらの演奏も共感の熱い演奏だ。「創った人に聴かれるのはちょっと怖いですけどね」と笑いながら、スペインの作曲家にフラメンコと共演する曲を委嘱しているという彼女、今後の展開も要注目だ。
写真©Marco Borggreve