Till Bronner
アコースティック・サウンドでストレートにジャズを感じさせる新作
ドイツ出身のティル・ブレナーは、22歳でデビュー・アルバムを吹き込み、'98年にはヴァーヴとの契約を手にした。クラシック音楽の素養もあり、ヴォーカルもこなし、R&Bやヒップホップからブラジル音楽にまで触手を伸ばし、多彩な才能を見せてきた。そんな彼の20年に及ぶキャリアの中でも、自らの名前をタイトルに付けた新作『ティル・ブレナー』は、ストレートにジャズにフォーカスした作品で、瑞々しさを感じさせる。「僕の土台にはやはりジャズがある。いろいろなスタイルの探求は好きだが、自分の人となりを見せるためのステートメントが必要だと思ったんだ」
'02年リリースの『ブルー・アイド・ソウル』はビート・メイカーのサモン・カワムラをプロデューサーに迎え、ディアンジェロの影響を感じさせるビートを下地に、デジタルとアナログのハイブリッドを追求した好アルバムだが、『ティル・ブレナー』にもまたカワムラがプロデューサーとして参加している。「カワムラは演奏の技法よりサウンドとスタイルに力を入れている。僕は自分の演奏する楽器に対してすべてを把握したいが、彼も自分のサウンドに対してそうで、そこが僕らの共通点でもある」
しかしながら、『ブルー・アイド・ソウル』のようなビートは今回は入っていない。「確かに今回はビートがなく、5人のミュージシャンがオーガニックに作っている。今回のサウンドの鍵はミックスで、なるべくドラムの音を抑えた。と同時にドラムが重要でもあった。ミキシングのとき、サウンドが良ければ空間が生まれる」
『ティル・ブレナー』は、ストレートなジャズ・アルバムだが、『ブルー・アイド・ソウル』にあった空気感を通過した空間的なサウンドになっている。それは、ロバート・グラスパーのようにブレナーより若いヒップホップを理解するジャズ・プレイヤーたちと通じる目線があるからだろう。「ディアンジェロとロイ・ハーグローヴが一緒にやってあのサウンドが生まれ、多くの人が影響を受けたけど、そこから一回間があって、気が付くとニュー・ソウルも廃れていった。いまはそういうサウンドがこのまま続くのかどうか岐路に立たされていると思う。ホセ・ジェイムズのような存在は面白いが、それが新しいものになるのか、リヴァイバルになるのかはもう少し見ていかないといけない。そして、今回の僕のサウンドがフレッシュなものだったのは、やはりアコースティック・サウンドだったからじゃないかな」
アコースティックをいま一度どう鳴らすのか、そこに今後の鍵があるのだろう。