SAVAGES 『Silence Yourself』
おびただしい量の(そしてその多くが余計な)音楽情報で溢れ返る状況において、私たちはそこから何をどう選び取ればいいのだろう? そんな問いに対する答えがロンドン出身の新人4人組、サヴェージズから発せられた。彼女たちがリリースしたファースト・アルバム『Silence Yourself』のジャケには、以下のようなメッセージが掲げられている──〈かつて静かだったこの世界も、いまはもう人の声と騒音だらけ/それでも、ほんの一瞬でも雑音が収まってくれれば/自分を取り戻せるかもね/黙って、聴いて〉。ジェマ・トンプソンの鋭利なギター、アイス・ハッサンの鼓膜を圧するベース、フェイ・ミルトンの扇情的なビート、そして前だけまっすぐ見据えたようなジェニー・ベスの力強い歌声──楽曲を構成するすべての要素が、あるべきところに収まっている。完璧だ。
サヴェージズの歴史はまだ浅い。2011年10月に4人の女性が会したところから物語は始まった。そのわずか3か月後にブリティッシュ・シー・パワーのオープニング・アクトとしてライヴ・デビューを果たした後、鮮烈なパフォーマンスがネットや口コミを通じてUK中に広まり、数々のレーベルからオファーが舞い込むようになる。そして、最終的に彼女たちは名門のマタドールを選び、このたびアルバム・デビューを飾ったわけだ。
「当時はレーベルから興味を示されても拒んでいたわ。自分たちの力で名前を売ってきたのに、他の人に渡すのがバカバカしいと感じていたから。でもアルバムが完成したら、〈これを世界に向けてリリースしたい〉って思うようになって、それでマタドールと契約することにしたのよ」(ジェニー:以下同)。
ジェニーの恋人でもあるジョニー・ホスタイルと、アデルやXXを手掛けるロディ・マクドナルドをプロデューサーに迎えたこの初作は、人間の知覚と本能に強く訴えかける、ジェニーいわく「野蛮なサウンド」が約40分間のなかにぎゅっと凝縮されている。
「ジョニーはバンドの心理面のサポートと、各パートのもっとも良い音を探す役割を担ってくれた。ロディは3週間分の作業をひとつにまとめてくれたわ」。
誤解を恐れずに書くと、サヴェージズの音は決して新しいタイプのものではない。ここでは70年代末にUKで生まれたポスト・パンクが忠実に継承されている。例えばジョイ・ディヴィジョンやスージー&ザ・バンシーズの面影を見い出だすことは容易い。また、10年前に起きたリヴァイヴァル・ブームのことを思い浮かべる人もいるだろう。
「サヴェージズは特に新しいことをしようと思っているわけではなくて、ロックンロールの伝統を持続させようとしているの。爆音を出して、自分たちに影響する物事について歌い、そして個性を表現しようとしている。本当にそれだけなのよ」。
〈夫〉という存在に対する疑問を歌った“Husbands”、心の奥に潜んだマゾヒズムをえぐり出す“Hit Me”、軟弱な愛情に溢れる都市への苛立ちを表現した“City's Full”など、〈愛〉をテーマにした曲が目立つものの、本作には一般的なラヴソングが一切ない。彼女たちは誰もが心に抱えているだろう不安や怒り、欲望、闘争心といった感情を、ソリッドなアンサンブルに乗せて聴き手の目の前にさっと突き出し、黙考と興奮とを同時に促すのである。
「バンドを始めた当時、ジェマはJG・バラードやフィリップK・ディックの悲惨な小説をたくさん読んでいて、そこから〈Savage=残酷な〉という言葉をバンド名に付けることにしたの。私は私で、人間を取り巻く環境の進化について興味を持っていて、シーグフリード・サスーンやロバート・グレイヴスが書いた戦争詩をよく読んでいたわね」。
『Silence Yourself』は、混沌として出口の見えない現代社会に放たれた、一筋の閃光の如きステートメントだ。ざわついていた室内が一瞬でシンと静まり返るような、圧倒的な迫力と言葉にならない説得力に満ちたサウンド。ほんの少し黙って、耳を傾けてみてはいかがだろう。
PROFILE/サヴェージズ
ジェニー・ベス(ヴォーカル)、ジェマ・トンプソン(ギター)、アイス・ハッサン(ベース)、フェイ・ミルトン(ドラムス)から成る4人組。2011年10月にロンドンで結成し、2012年1月にブリティッシュ・シー・パワーの前座で初のライヴを行う。6月にはジェニーと彼女の恋人であるジョニー・ホスタイルが運営するポップ・ノワールから、ファースト・シングル『Flying To Berlin/Husbands』を発表。NMEやPitchforkなどで大きく取り上げられるようになり、同年末にはBBCの〈Sound Of 2013〉にもノミネートされる。2013年に入ってBO NINGENとジェニーとのコラボが日本でも話題となるなか、ファースト・アルバム『Silence Yourself』(Matador/HOSTESS)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年06月20日 19:45
更新: 2013年06月20日 19:45
ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)
インタヴュー・文/佐藤一道