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インタビュー

LONG REVIEW――スネオヘアー 『8 エイト』



〈後味〉として残るポップネス



スネオヘアー



いまの時代のメインストリームは〈全力〉にある。僕はそう見ている。シンプルで甘いポップソングよりも、音圧や情報量を詰め込み、目まぐるしく派手な展開を持つ音楽がキャッチーとされる。そういう音楽がヒットチャートを賑わすという状況にある2013年の日本。例えば、現在のスネオヘアーのレーベルメイトでもあるももいろクローバーZがそのひとつの象徴なんじゃないかと思う。アイドルだけでなく、ロック・バンドでも、ボカロでも、ラウドさと疾走感と熱量と引っ掛かりに満ちた曲調、そこにあるフックの強いメロディー――そんなポップネスが、多くのリスナーに求められているムードを感じる。

そんな風潮のなかにおいて、スネオヘアーの〈自然体〉で〈脱力〉な作風は、〈もうひとつの~〉という言葉の本来の意味で、いまの日本の音楽シーンにおける〈オルタナティヴ〉なのではないかと思う。セルフ・タイトル作『スネオヘアー』から2年。前作は、妻のともさかりえとデュエットした“家庭に入ろう”など、ほんわかとしていて、ユルく、幸福感のある楽曲を集めたアルバムだった。変化球のような仕掛けよりも、充足感を大事にした作品だった。今作も、基本的にはその方向性。シンプルで、メロディーの良さを噛み締めるポップ・ミュージック。どっしりとしたビートが導く冒頭のミディアム・チューン“ブライトン”から、“slow dance”や“ユニバース”など、シングル曲もシンプルで骨太。即効性よりも、何度も繰り返して聴いているうちに沁みてくるような、〈後味〉として残るポップ性を大事にしている。“if”“素直になれそう”“game over death”の、何かが終わっていくような寂寞さも、じんわりと胸に迫る。派手さはなくとも、長く聴き続けられそう。


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掲載: 2013年05月22日 18:01

更新: 2013年05月22日 18:01

文/柴 那典

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