jizue 『journal』
ジャズ、メロディック・ハードコア、スクリーモ、ヒップホップ、ミクスチャー──jizueの4人にそれぞれの音楽的なバックボーンを訊き、出てきたのがこれらのジャンルだ。ただし、それらを単純にプラスすることで彼らの音楽世界が出来上がっているわけじゃない。今回の新作『journal』にも、ジャズ/フュージョン的と言えるメロディー感覚、セッション性が全面に押し出されつつ、ハードコア的な攻撃性やラテン風のフレーズが飛び出してきたりと、なかなか一筋縄ではいかない。
「ジャズの持つ自由な表現方法やスリリングな感じは自分たちを昂ぶらせるひとつの要素になっていますね」(井上典政)。
「ロックやハードコアにある〈強さ〉は昔から持っているんじゃないかな」(粉川心)。
「インスト・バンドで言葉がないぶん、風景や感情、色や温度が見える音楽を作れればと思っています」(片木希依)。
『journal』は、彼らにとって3枚目のアルバムにあたる。そのタイトルに関して彼らはこう語る。
「ファーストは短編小説が集まった本棚のようなアルバムだったので『Bookshelf』、セカンドが〈長編小説、新しい〉という意味合いの『novel』。今回も本にちなんだ言葉から考えて、曲の幅も広がったということで『journal』にしました」(井上)。
「いままでのjizueらしさも残しつつ、新しいことにも挑戦しました。やりたい音楽の幅も広くなったし、フィーチャリングもそのひとつですね」(片木)。
そのフィーチャリング・アーティストは2人。一人は、流麗なピアノのメロディーが牽引する“holiday”でスケールの大きなヴァイオリンを聴かせる山本啓(Nabowa)。もう一人は、2011年に初作『朝を開けだして、夜をとじるまで』を発表して以降、透明感溢れる歌唱で注目を集めているYeYeで、彼女は本作で唯一の歌モノ“life”で憂いのある歌声を披露している。また、収録曲中でメンバーがキーとなる楽曲として挙げたのが、ラテンの色も濃い“dance”と複雑なアンサンブルで引っ張る“rosso”だ。
「“dance”と“rosso”は、初めて〈踊れる、踊らす〉ということを意識しました。いままではストーリーや思い、風景を表現して曲を作ることが多かったのですが、今回は強いメッセージを発信するひとつの手段としても作っています。ちょうどアルバムに向けて曲を作りはじめた頃は、関西では風営法が厳しくなり、クラブが多数摘発されたり、営業時間が25時までになってしまったりという時期で。京都は特に〈Let's Dance〉という署名活動も盛んに行われていたということもあって、〈音楽でダンスすることはとてもプリミティヴでパワフルなことだ〉ということを発信したい、という思いで作っていきました」(片木)。
地元・京都については「ここには独特の空気感や風土があるし、学生の街ということもあって昔からサブカルや京都独自の濃い音楽シーンがたくさんあって。インディペンデントなスタンスのアーティストが多い街なので、とても影響を受けていますね」と粉川は言う。スリリングでありつつ不思議に調和の取れた本作『journal』には、そうした人と人の繋がりもひとつの音楽像として形を結んでいるかのようだ。
「jizueのいちばんの強みは、何より仲が良いというところですかね。改めて言葉にすることはなかなかないんですが、メンバーが持ってる音楽に対する真面目な姿勢と、温かい人間性がとても好きなんです。それぞれの役割を自覚していまのjizueが成り立っていると思うし、だからこそ出せる一体感やグルーヴ、爆発力をライヴで感じてもらえると嬉しいです」(片木)。
記号と記号を足したところでは生まれ得ない、京都発のボーダレス・ミュージック。単純ではないその魅力にぜひ気付いてほしい。
PROFILE/jizue
井上典政(ギター)、山田剛(ベース)、粉川心(ドラムス)を中心として2006年に結成。翌年に片木希依(ピアノ)が加入し、現編成となったインストゥルメンタル・バンド。京都を拠点にライヴを重ねながら、2010年にファースト・アルバム『Bookshelf』を、翌年にはbudに移籍して初シングル“Chaser”を発表。続く2作目『novel』をリリースした2012年には、〈FUJI ROCK FESTIVAL〉への出演も果たす。同年12月にはコンピ『FINAL FANTASY TRIBUTE 〜THANKS〜』へ参加。2013年5月にはmabanuaのリミックス曲も含む先行カット“dance”を配信限定で発表し、徐々に全国区へと知名度を上げるなか、6月5日にニュー・アルバム『journal』(bud)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年06月27日 20:00
更新: 2013年06月27日 20:00
ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)
インタヴュー・文/大石 始