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インタビュー

徳田雄一郎

ハプニング満載の海外ツアー、
サキソフォン・マッドマン!と賞賛された男

ラジオ番組で影響されたアーティストのことを尋ねられ、一人もいないと突っぱねて評論家に顰蹙された。しかし「どこにも無い音を出したかった」という彼の望みは、ここにきて概ね達成されたようにみえる。一聴して切っ先鋭く、危機感を煽る硬質なその発音は、固有の変種だと分かる。サックス奏者・徳田雄一郎はそれを出すために膨大な時間を割いてきたのだ。ただ特殊すぎて、多くのギグから外されていった。自己のバンドで自身の音を探る以外に進む道はないと意を決したのが、米留学から帰国した10年前のこと。

気の焦りから急激な進化を自らに課した最初のバンドは一瞬で崩壊し「その後、数年間の試行期が必要とされた」。そしてメンバーを入れ替え始動したのが、RALYZZDIGである。「Rayは光熱、 Lyricは抒情、自分のJazz観でそれをDigする…バンド名の由来です」。ザラついた音とピッチ/ベンドの尖鋭、沖永良部(おきえらぶ)からの血筋に依る甘い歌心、そしてバンドブームもバブルも通過した世代特有の音楽観。サウンドが整っていく反面、曲感に煮詰まりを感じだした頃、ジャンルを超えたあるイヴェントから音楽監督を任ぜられ、薄く掛かった御簾が払われて来る道程を見通すことになる。

先の評論家に象徴されて、一定観念に捕らわれたこの国に居る限り目指す環境に到達することはあるまい。むろん異世代、異ジャンル、異人種どうしに交配はなく、不毛であると感じられた。端緒は2011年、応募した国際的コンペで思わず作曲面での優秀賞を獲得したこと。「NYのタウン誌に掲載されたのをきっかけにボルネオ、南京、トロントと各国のフェスから声がかかり、現地で知り合ったインド大衆音楽界のボスからも地元のギグに誘われました」。〈サキソフォン・マッドマン!〉と賞賛され、交わるはずがなかった異国・異ジャンルの音楽とクロッシングして帰ってくる。

 「『クロッシング・カラーズ』ってまさにそういうこと。肌の色やジャンルやジェネレーションの交わり…混一せず、元の色のまま同居し作用しバランスし合う状態。それはメンバー5人の個性でもあって、元来異色だった5人の音が海外に出てより屹立し、そんな今の状態をアルバムに残したいと思ったわけです」

タイトル曲には《~エレメンツ》と《~ハーモニー》の2ヴァージョンが存在する。それを納得させる5人の役割と効果には、未来の音を導く発想がある。作曲家コンペ応募作《ナッシング・ゼア》ではポリリズムと突飛な旋律に時空の歪みを生じさせる、まさに彼らだけの秘術だ。再びカナダ、マレーシア、インドを巡り、思わぬアクシデントに見舞われながらもすべて最高の形に昇華させてきた。彼ら、何かを持っている気がする。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年07月01日 14:22

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text:長門竜也