インタビュー

ミカ

生活に根差すブラジルの豊穣な音楽性を体現するピアニスト

ニューヨーク在住のジャズ・ピアニスト、ミカが満を持して、初の公式アルバムを発表した。ミカの音楽のベースにあるのは、ブラジル音楽。録音もリオデジャネイロで行われ、60年代から活躍するブラジルの名ベース奏者セルジオ・バホーゾ、気鋭ドラム奏者ハファエウ・バラータとのトリオによる演奏が収められている。しかし、「サンバ・ジャズ・トリオ」と名乗ってはいてもミカの音楽は、型にハマったありきたりのサンバジャズなんかじゃない。サンバをはじめとするブラジル音楽をしっかり根付かせた、ミカ流の自由で、かつスリリングな、ジャズだ。ミカが初めてブラジルを訪ねたのは90年代初頭のころだった。

「アメリカ合衆国などの、世界的に有名なミュージシャンがブラジルの音楽を演奏しても、ブラジル人ミュージシャンが演奏するときのリズム感と違って聞こえたんです。無名の音楽家でも操る、リズム感や自由自在なコード進行がとても魅力的で」

このブラジル音楽が持つ魅力はなんなのだろう? 自分の目で確かめたいと、「ポルトガル語もろくに話せないし、ブラジル音楽のことも全くといっていいほど知らなかった」まま、はじめは観光のつもりで訪れたのが、そのまま5年滞在することに。ジンボ・トリオが創設した音楽学校クランにも籍を置き「ひたすらリズムを体感的に学んだ」という。その後も渡伯を重ねて音楽家たちと交流を重ねた。

「毎日のように友人たちのライヴに行ってセッションさせてもらったことも、ダンスホールのためのアシェー(北東部由来のアフリカ系リズムに根ざしたポップス)のバンドで仕事していたことも勉強になりました。言葉のリズムや、生活のリズムから、ブラジル音楽は生まれたのだなということを実感しました」

形からボサノヴァやサンバに入ったのではなく、体ごとブラジル音楽とぶつかり、リズムやノリを体全体に染み込ませ、咀嚼して自身の音楽の根っこにしているからこそ、ミカはそれを土台にして自在な演奏ができるのだ。ブラジル人でもないのに、ブラジル音楽のノリを失わずにアドリブをかましたジャズの演奏ができる音楽家は、そうそう多くはいないのだ。

だから、《サンバ・ヂ・イザベウ》を始め勢いのあるサンバジャズ・スタイルのインスト曲でも、ミカの演奏は、彼女ならではの思いやブラジリダーヂなどいろんな想いを含んだ〈歌〉を感じさせる。セルジオ・バホーゾとハファエウ・バラータも、共通言語でそれに応えて心から楽しそうに歌っている。だからこそこの作品は、このトリオにしか鳴らせないジャズを鳴らしているのだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年07月05日 15:11

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text:麻生雅人