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インタビュー

LIVE REPORT――cali≠gari @ 日比谷野外大音楽堂 2013年6月22日(土)



cali≠gari_live



いまにも降り出しそうな曇天の下、舞台に目を向けると〈死せる青春〉と墨書された巨大な白い幕が垂れ下がっている。10年前のこの日、この場所で、cali≠gariは〈青春特急、都へ! ~天国発野音行き~〉と題したライヴを開催し、無期限の活動休止期間へと突入した。そして、そこからちょうど10年後――活動休止から10周年を記念したこの日のステージに冠されたタイトルは〈caliversary in YAON“2003-2013”「死せる青春」Days which made adolescence,and…〉。ドレスコードは黒服。このバンドにしてこのオーディエンスありというか、モロに喪服の参加者もちらほらと見掛けるが、そんなふうに黒に染まった会場を見渡しながら考える。死せる青春とは、果たして何なのか。

時計の秒針が回るようなSEと共にメンバーが登場すると、〈死せる青春〉の幕は天井を丸ごと覆うように上方へ。石井秀仁と村井研次郎が纏った解釈を拒絶する衣装にどよめく観客を尻目に、冒頭から“その行方 徒に想う…”といった近年ではプレイされることが珍しいナンバーを繰り出すなど、序盤は第7期以降――現在のメンバーで発表した作品の楽曲のみで構成。グラマラスなデジタル・ロック“-踏-”や桜井がロボット・ダンスをキメたシンセ・ポップ“コックアドゥードゥル”など復活以降の楽曲の合間にリアレンジによってタイムラグを無効化した“ギャラクシー”を挿み、4人は一気に4曲を立て続ける。

石井秀仁

「みんなでいっしょに歌おうというコンセプトの元に俺が作った」という石井らしくないMCに客席から苦笑が漏れるなか、ドライヴ感を増したな一卵性双子曲――リズムの素材を同じくする〈ザ・ジャパニーズ80s〉なナンバー“ウォーキング! ランニング! ジャンピング! フライング!”“ミッドナイト! ミッドナイト! ミッドナイト!”を2連打すると、4つ打ちと可憐なシーケンスに彩られた“フラフラスキップ”へ。桜井が「あっそーれ!」と合いの手を入れると、会場全体から響くハンドクラップがそのままリズムとなって楽曲の中に組み込まれていく。〈雨にも負けず〉という歌詞と絶妙にリンクするタイミングで雨がポツポツ降りはじめると、ここで村井のMCコーナーが。

「最近、やってる曲と格好(衣装)がだんだん似合わなくなってきた!」

「40過ぎたヴィジュアル系にはキツいことがだんだん増えてきた! だから“フラフラスキップ”は今日で封印する!」

「曲が始まるかどうかは、マニピュレーターの白石(元久)さんが(PCの)スペースキーを押すかどうかにかかっている! お前ら“フラフラスキップ”の続きを聴きたいか!? ……(声のトーンを落として)それともこのままバラードに入りたいか。(またテンションを上げて)桜井青の、炎のギター・ソロを聴きたいか!? 武井誠の、レッド・ツェッペリン譲りのドラムを聴きたいか!? 石井秀仁の、セクシー・ヴォイスを聴きたいか!?」

そうして観客と「白石、スペースキーを!」「押せ!」といったコール&レスポンスを繰り広げると、“フラフラスキップ”が再開。そのまま桜井がジュリ扇を振りまくる“マッキーナ”に移行して会場を大きく揺らすと、ふたたび村井のMCへ。



武井誠



「最近、誠が頭にトラブルを抱えてしまったんだ……」という武井の頭髪に関する誠に残念なお知らせから、「誠に!」「リアップ!」というコール&レスポンスを繰り返すと、「誠の髪の毛が星屑になる前に……」といった適当すぎる曲紹介を経て、“さよなら、スターダスト”へ。

随所に挿し込まれる美麗なコーラスワークがセンティメンタリズムに拍車をかける歌謡ロック、低体温ながらポップな“暗中浪漫”でエレガントな表情を覗かせたかと思うと、間髪入れずにエスニックなフレーズが……その挑発的な“吐イテ棄テロ”では、赤と青の照明の対比で一気に禍々しい空間を創出。そして、続く“トレーションデモンス”をパンキッシュに突っ切ると……野音におけるライヴとは縁が深いであろう“青春狂騒曲”。客席からも歓声が上がっていたが、10年前の桜井はこの曲の前に「今日は、何を言っても嘘っぽくなると思うんで、何も言いません。ただ、僕たち4人はcali≠gariが青春でした!」と語っていただけに、思わず目頭が熱くなる。

大団円的なムードを持つ“青春狂騒曲”が終わると、「準備に時間がかかる女でごめんなさいね」と断りを入れながら舞台の縁に腰掛け、マイクのセッティングを始める桜井。「10年経ったいま、同じメンバーで“青春狂騒曲”ができて嬉しいです……なんてことはここでしか言わないからね!」と持ち前のツンデレぶりを炸裂させながら、MCは続く。



桜井青



「〈ハタチセカンドシーズン〉(40歳)を迎えてもヴィジュアル系の世界に身を置くことができて、ありがたく思っています。今後は貫禄を保つためにアダルト・ヴィジュアル系、略してAVでいこうと思います」と新しい方向性(!?)を宣言すると、ゲストとしてサックスのYUKARIEを呼び込み、サポート・キーボーディストの秦野猛行を紹介。そして「別に葬式ごっこしないで、合羽とか着ていいですよ」と観客を気遣いながら座らせると、「この6人で素敵なAVの時間をお届けします」――。

そうして完全に照明を落とした“東京、43時00分59秒”以降は、まさに夜の野外を前提にした演出を展開。サックスの音色によって哀感を増したメトロポリタン歌謡は、〈夕映えに沈む、東京を見てた。どこまでも沈む、東京を見てた。〉という歌詞とライティングとの相乗効果で感動もひとしおだ。黄昏を想像させるステージ背面からの逆光と共に、床面からは上空へ向けて白いスポット照明がいくつも投射され、夜空に光のタワーを現出させる。掛け合ってはハーモニーへと収束する石井と桜井のコーラスワークもその風景へとふわりと溶け込み、しみじみとした余韻を中空に漂わせていた。

雨天という天候がハマった“続、冷たい雨”“冷たい雨”のあとは、観客が灯した懐中電灯とサーチライトで楽曲の表題を視覚化した“オーバーナイトハイキング”。そして、リズム隊からサックスへと硬派なソロ回しを披露した“ゼリー”、レヴュー的な華やかさを持つ“東京ロゼヲモンド倶楽部”といったジャジーなナンバーで会場を狂騒のダンス空間へ誘うと、そこであっけなく本編が終了。即座にアンコールの声が上がる。

メンバーの再登場を待っている間にふと雨上がりの空を見上げたら、月が出ていた。だが、そんな穏やかな夜の光景を、この後に披露される『1』の楽曲群が阿鼻叫喚の図へと一変させる。

ファストコア化した“ギロチン”では悲鳴のようなサックスが暴れ回り、“失禁”ではグルーヴィーな低音の上で自暴自棄の如き石井のシャウトが轟く。〈死ね死ね死ね死ね!〉と高速で急き立てる“-187-”、タメの効いたベースラインにリードされて石井と桜井が〈クソバカ!〉〈ゴミゲーロ!〉と好戦的に掛け合う“クソバカゴミゲロ”、〈ミナゴロシ〉のループが徐々に加速していく“37564。”……その果てにフェイドインしてきたのはそう、サイレンの音だ。



村井研次郎



警戒を促すその音を合図にしたかの如く、それまでメンバーの姿を影絵のように二重映しにしていた照明がガラリと変わり、ステージ上が業火のように真っ赤に染まる。さらには大量のスモークが立ち現われ、4人の姿が観客の視界から遠ざかる。ギターを力なく手にぶら下げ、虚ろな表情で徘徊しながら時折思い出したように絶望の声を上げる桜井を向こうに、凶悪極まりない雄叫びを上げる石井。サイレンに侵された僕を助けてください、という訴えが徐々に断末魔のような言葉なき声に変わり、会場を筆舌に尽くしがたい恐怖感と切迫感で塗り潰していく。かつ、その獣のような咆哮の出所が靄に隠れて掴みにくいだけに、その得体の知れない不穏さは、聴き手の頭のなかで何倍にも破壊力を増すのだ。筆者は突然放り込まれた混沌のなかで、ただ目を見開き、耳を澄ましたままその場に立ち尽くしていた。

回転し続ける無数の赤色灯と、延々と鳴り続けるサイレンの音を残してメンバーはあっさりと退場。会場内はふたたびアンコールの声に包まれたが、4人がステージに戻ってくることはなかった。だがそれだけに、“サイレン”で受けた衝撃はいまもはっきりと脳裏にこびりついている。

ここで、最初の疑問に戻る。〈死せる青春〉とは一体何だったのか――。

現在のスキルやモードに合わせてリアレンジされた楽曲群。メンバー同士の関係性に始まり、復活後は以前と大きな変化を遂げたバンドの在り方。この日のcali≠gariのステージを観て思ったのは、死んだものの幻影と、その生まれ変わりを同時に観ているようだな、ということ。休止前の楽曲(のアレンジ)や当時のcali≠gariというバンド――2003年までに通り過ぎた季節を青春と呼ぶならば、青春は死んだのかもしれない。だが、新陳代謝のような進化を繰り返すことで、ここには〈いま〉の仕様に生まれ変わった楽曲とバンドがある。

死から生へ転じるきっかけ、あるいはその瞬間――それが〈死せる青春〉なのかもしれないな、というのが筆者の感想。ちなみに桜井が当日感じたという〈死せる青春〉は、本文中に散りばめてある。この言葉に定型の意味合いはなく、聴き手の立場によって変わるものだと桜井は語っていたが、いずれにせよ間違いないのは、バンドはすでに次の季節へ向かっているということ。現時点でリスナーが確認できるその直近の足取りが、すなわち『1』ということだろう。



caliversary in YAON“2003-2013”「死せる青春」Days which made adolescence,and… セットリスト



1.その行方 徒に想う…
2.―踏―
3.ギャラクシー
4.コックアドゥードゥル
5.ウォーキング! ランニング! ジャンピング! フライング!
6.ミッドナイト! ミッドナイト! ミッドナイト!
7.フラフラスキップ
8.マッキーナ
9.さよなら、スターダスト
10.暗中浪漫
11.吐イテ棄テロ
12.トレーションデモンス
13.青春狂騒曲
14.東京、43時00分59秒
15.続、冷たい雨
16.冷たい雨
17.オーバーナイトハイキング
18.ゼリー
19.東京ロゼヲモンド倶楽部

~アンコール~
1.ギロチン
2.失禁
3.-187-
4.クソバカゴミゲロ
5.37564。
6.サイレン


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2013年07月03日 18:01

更新: 2013年07月03日 18:01

文/土田真弓