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インタビュー

八王子P 『ViViD WAVE』



多くの外仕事を経た人気ボカロPが、ボーカロイドのおもしろさを改めて追求。その結果提示された、彼流の普遍的なポップスとは?



八王子P_A



ニコニコ動画や同人音楽の分野でダンス・ミュージックをベースにしたボーカロイド楽曲を次々と世に送り出し、圧倒的な人気を獲得してきたプロデューサー、八王子P。近年はボカロ仕事だけでなくより広いフィールドにもその名を浸透させつつある彼が、新作『ViViD WAVE』をリリースした。昨年の『electric love』に続く2枚目のアルバムとなるが、前作とは制作過程やその意味合いが異なるようだ。

「前作はニコニコ動画で発表したものなど既存の曲が大半だったのに対して、今回はフル・アルバムとして、いちから組み上げていった作品です。とはいえ、特にテーマやコンセプトは設けずに、曲のイメージをひとつひとつ形にしていくことで完成させました。そういう意味では統一感はないのかもしれないですけど、だからこそカラフルな楽曲が集まったと思っています」。

煌びやかなエレクトロ・ハウスを主軸にドラムンベースやハッピー・ハードコアばりの高速チューンといった多彩なサウンドを詰め込みながら、今回もほぼ全曲でボカロをフィーチャーしている。

「この1年ほどの間に、シンガーの方のプロデュースや楽曲提供をいろいろやらせてもらったんですけど、そういう仕事を続けるなかで、ボカロでやりたいという欲求が出てきたんです。生のヴォーカル曲を組み合わせるやり方もありますけど、自分としてはボカロだけで完結させたかった」。

トラックダウン以外の行程をすべてひとりで担っており、もちろん作詞も担当。初音ミクたちの発する言葉はごく自然に聴き手の耳へ飛び込み、楽曲ごとの情景や物語を形作っていく。

「曲作りでは、詞よりもサウンドやメロディーを優先するタイプだったんですよ。でも、ポップスの仕事を通じて、音と詞は別で考えるものじゃないと気付いた。良いポップスって、言葉とメロディーとが有機的に絡み合っているんですよね。それで今回は作曲と作詞を並行して進めて、歌詞によってメロディーを変えたりしました」。

その結果として、誰もが共有し得るポップソングが成立しているのだが、この普遍性の部分にもボカロが寄与すると八王子Pは捉える。

「ボカロっていろんな顔を持っているし、具体的なイメージは聴き手に委ねられる。そこは生の歌い手さんとは違いますよね。そういうボカロならではのおもしろさを追求したい。だから声もかなりケロらせて無機質な感じにしているし、ボカロでしか歌えないようなメロディーやキーが多いと思います。人間らしい表現は人間に敵わないので」。

ボカロ・シーンにはボカロ・シーンの流儀があり、その独特のノリがおもしろくもあるのだが、八王子Pはそうした界隈の枠組みに囚われることなく、フラットな視点で音楽を紡いでいるように思える。幅広い0リスナーに向けて訴求する力をこの『ViViD WAVE』は備えているはずだ。

「正直、自分の曲はいまのボカロのトレンドではないかもしれないですけど、そこでスタイルを変えちゃいけない。そう思って、自分なりのボーカロイドを表現したのがこのアルバムですね。ニコ動にはいまもおもしろいクリエイターがたくさんいるし、もちろんメジャーでもやっていきたい。いろんな場の架け橋のような存在になれたら理想ですね」。



▼八王子Pがリミックスで参加した作品を一部紹介。
左から、ゆうゆの2012年作『世迷言ユニバース』(クラウン)、元気ロケッツの2011年作のリパッケージ盤『GENKI ROCKETS II -No border between us- Repackage』(ソニー)

 

▼関連盤を紹介。
左から、八王子Pの2012年作『electric love』(ソニー)、2012年のkz(livetune)とのスプリット・シングル『Weekender Girl/fake doll』(トイズファクトリー)、八王子PとのコラボMVを多く手掛けるわかむらPの2013年の映像作品集「at first sight - Best Selection of わかむらP feat.初音ミク」(ソニー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年07月17日 18:02

更新: 2013年07月17日 18:02

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/澤田大輔

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