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インタビュー

dip 『HOWL』『OWL』



ヤマジの課外活動を通じて、改めて自身のバンドのあり方、鳴らす音楽を見つめ直して出来上がった2枚の新作! 前向きです!



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ここ数年、ヤマジカズヒデ(ヴォーカル/ギター)が精力的にライヴを楽しんだり、仲間のアーティストと交流していることに気付いている人も多いだろう。DIP THE FLAGを母体にdipとして活動を開始したのが91年。当時は誰も信用していないような怯えた表情で、自分の中だけで物事が完結している印象もあった。が、あれから20年以上が経ち、現在の彼はまるで別人のように健康的で開かれた人物になっている。

「生活そのものが変わったの。あの頃のことを後悔はしてないけど、もう昔のような毎日は送れないね。いまはいろんな人と繋がってライヴをやったりスタジオで音を出したりすることが楽しい。昔はアルバム用にどの曲をレコーディングするかなんかも全部俺が一人で決めていたんだけど、今回はメンバーとかスタッフの意見を反映させたしね」(ヤマジカズヒデ:以下同)。

約4年ぶりの新作は2枚同時リリース。『HOWL』『OWL』とタイトルが与えられ、前者にはメロディアスな曲調で短めのギター・ロックが11曲、後者にはドローン系とも繋がりそうなサイケデリックで長尺の4曲がそれぞれ収められている。いずれもdipの音楽性を支える両側面を表した作品と言っていいだろう。

「曲の断片が90曲くらいあって。それをまとめていったら最終的に15曲くらいになったの。そしたらみんなが〈これを全部録音しよう〉って。最初は〈え?〉って思ったけど、例えば他のアーティストの曲を聴いて〈このミス・トーンがいいんだよね〉とかって思うことがあるじゃない? 〈この未完成な感じがおもしろいよね〉とかさ。それをdipにも置き換えてみたら結構いいんじゃない?って思えるようになったんだよね」。

前作の発表後、最初の2年ほどは何もする気が起こらず、いたずらに時間が過ぎていくだけだったという。だが、チバユウスケや中村達也、古里おさむ、須藤俊明らとバンド活動をしたりセッションをしたり、本隊のトリビュート・アルバムなども制作されるに至り、他者との関係性のなかで、dipというバンドを捉え直していくことに醍醐味を感じるようになったと告白する。

「いまはdipというチームって実感がある。むしろ俺自身がそれを望んでいたんだと思うんだ。パソコンを使って曲を作ることにも飽きて、〈バンド感〉みたいなものを求めていたのかもね。だから今回のアルバムも相変わらずギター・サウンドだし、歌詞も日々の生活のなかで思いついた言葉を綴っていく感じだったし……例えば、2007年に出したアルバム『feu follet』(ルイ・マル監督の映画『鬼火』の原題)は、以前TV番組で岸惠子が話していた言葉から取ったからね(笑)……まあ、これといって(音楽的に)大きな変化はないかもしれないけど、自分としてはみんなで作った作品って感じがしている。そこはこれまでと全然違うかもしれないな」。

大きな変化はないと言いつつも、ジャズマスターやテレキャスターなどギターの名前が出てくるロックンロール讃歌“Stroke”(『HOWL』収録)や、〈冬に咲く花を摘みに行こう〉といった歌詞が穏やかなロマンティシズムを匂わせる“Flow That Crown”(『OWL』収録)など、生活を立て直し、活動的なミュージシャンとして再出発した、いまのヤマジカズヒデの前向きな心境を投影させた曲が並んでいる。

「“Howl”という曲の、〈泥沼から足は這い出した〉という最初の歌詞、もうこれがすべて。いまは出てきた言葉、生まれてきたメロディーをそのまま作品にしていくだけなんだけど、いろんな人との交流を経て新たな音の聴き方を知ったいまだからこそ、ただ音を出していた昔とはやっぱり違うのかもしれないね」。



▼ヤマジが参加した近作を紹介。
左から、映画「I'M FLASH!」のコンセプト・アルバム『I'M FLASH!』(ポニーキャニオン)、sugiurumnのニュー・アルバム『May The House Be With You』(ワーナー)、8月7日にリリースされるcruyff in the bedroomのトリビュート盤『JESUS CRUYFF SUPER STAR Sensitive Melody Disc』(Only Feedback)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月22日 15:10

更新: 2013年08月22日 15:10

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野

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