こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

片想い 『片想インダハウス』



片想い_A



熱くて、切なくて、有頂天。まるで誰かに〈片想い〉しているみたいなパッションで音楽を奏でる8人組が、バンド結成10年目にして初めてのアルバムを作り上げた。東京で結成された片想いは、ロック、R&B、ヒップホップ、レゲエ、民謡など、さまざまな音楽を盛り込んだサウンドを聴かせるライヴ・バンドとしてじわじわと人気を集め、昨年の〈フジロック〉ではレディオヘッドの裏で話題を呼んだ。そんな彼らの待望のファースト・アルバム『片想インダハウス』には、バンドの10年分の想いがたっぷり詰まっている。

「10年やってきたので曲のストックはめちゃくちゃあって。そこからライヴでお客さんに支持された曲というか、自分たちも気に入ってるものを選びました。いちばん新しい曲は“踊る理由”ですけど、これを演り出してからお客さんのノリが変わって、〈パーティー・バンド〉とかって呼ばれるようになったんです。他にパーティーっぽい曲は少ないんですけど(笑)」(MC.sirafu)。

ホーンが高らかに鳴り響き、ビートが跳ねて、コーラスやシャウトが飛び交う。さらにラップや寸劇が挿まれるなど、それぞれの曲にはユニークなアイデアと、Pファンクやブライアン・ウィルソン、ソウル・フラワー・ユニオンら、彼らがリスペクトする音楽への愛が織り込まれている。

「曲を作る時はみんなで好きな音楽を聴きながら、〈ここがいいね!〉とか〈こういう感じを活かしたい〉とか言って、いっしょに歌ったり、歌詞を考えたりするんですよ。高校生みたいにポテトチップとか食べながら(笑)」(片岡シン)。

「楽器や編成は曲ごとに変えて、曲によってバンドの表情が変わるようにしてます。あと気をつけているのは、あまり曲を作り込まないこと。お客さんが入ってこられるように隙間を作っておくんです」(MC. sirafu)。

なかでも素晴らしいのは、メロディーが微笑み、歌詞が語りかけてくるような人情味溢れるソングライティングのセンスだ。そこには「最初から〈ポップス〉をやりたいと思ってた」(片岡)というバンドの姿勢が貫かれている。

「温度がある歌というか、初めてライヴに来たお客さんが家に帰っても覚えててくれているような曲が理想です」(MC.sirafu)。

敷居は低く志は高い彼らの歌を聴いていると、気付けば自分も彼らの輪の中に入っているような、不思議な一体感を感じられる。ファンが高じてメンバーになったオラリーは、バンドの魅力をこう語ってくれた。

「片想いのライヴは全員に歌とかソロ・パートがあって、各自が脚光を浴びるんです。それがすごく新鮮で。私が加入して初めてのライヴの時はいきなりセンターに立たされて、〈なんだこのバンド!?〉と思ったんですけど(笑)、終わった後、ライヴでミスしたことを謝ったら、〈気にしないで良いよ、そういうのが片想いだから〉って言われて肩の荷が降りました」(オラリー)。

メンバーも観客も同じ目線で音楽を楽しみながら、マイペースに活動を続けてきた10年。アルバムのリリースを前にしてMC. sirafuは、「プロフェッショナルで洗練されたものも好きなんですけど、洗練されない良さもあると思っていて。それを続けていくのも大変ですけど、それがある程度できているところを観てもらいたいですね」と語り、片岡が「そして、できれば〈紅白〉にも出たいし、アイドルとも付き合いたいし……」と抱負を語れば、オラリーが「欲たらけじゃん(笑)!」とすかさず突っ込む。そんな3人の様子を見ているだけで、バンドの雰囲気が伝わってくるようだ。彼らが愛するスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの曲じゃないけど、〈エヴリバディ・イズ・ア・スター〉な心意気が刻み込まれた本作は、ライヴで鍛え抜かれた最強のナンバーを取り揃えてリスナーを手招きしている。さあ、素敵なショウの始まりだ!



PROFILE/片想い


片岡シン(ヴォーカル/ギター)、MC.sirafu(ヴォーカル/トランペット/ギター/スティールパン)、issy(ヴォーカル/ピアノ)、あだち麗三郎(ヴォーカル/ドラムス)、伴瀬朝彦(ヴォーカル/サックス)、遠藤里美(ヴォーカル/サックス)、大河原明子(ホルン)、オラリー(ヴォーカル/ピアニカ/ギター)から成る8人組。2003年頃、片岡とMC.sirafu、issyを中心に結成。現在に至るまで徐々にメンバーが増え、現在の編成になる。都内を中心にライヴ活動を行いつつ認知を広め、2012年にはアナログ作品を2枚発表したほか、〈下北沢インディーファンクラブ〉〈フジロック〉に出演。8月7日にファースト・アルバム『片想インダハウス』(KAKUBARHYTHM)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月23日 19:55

更新: 2013年08月23日 19:55

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎