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インタビュー

DJ DECKSTREAM 『DECKSTREAM.JP』



海外勢との絡みが多かったプロデューサーの次の一手は、自身の流儀に沿った〈J-Popアルバム〉。意外なコラボのなかに、新しい出会いがあるかも?



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吹っ切ったものを作りたい

あのDJ DECKSTREAMがJ-Pop!? 彼のこれまでの歩みを知る人ほど、そんな驚きを隠せないんじゃないだろうか。2007年発表のファースト・アルバム『DECKSTREAM SOUNDTRACKS』以降、自身名義の作品に迎えるラッパー/シンガーはほぼ海外勢だった彼の新作『DECKSTREAM.JP』は、全曲邦楽アーティストとのコラボ。しかも、なかにはアイドルも含まれており、ちょっと考えられないほど多彩な顔ぶれが並んでいる。

「どうせだったら吹っ切ったものを一枚作ってみたいっていう興味はあったんです。〈SOUNDTRACKS〉シリーズの邦楽ヴァージョン的なものを考えて、アルバム一枚で一本の映画みたいになるものを作ろうと思ってました。ゲストの人選は、全然失礼な意味ではなく、声も楽器の一部として考えたいところがあるから、このトラックには甲高い声の人が合うとか、鼻声の人が合うとか、そういうところから考えたところもあります」。

先行配信シングル“浪漫は一日にしてならず”から衝撃のコラボだ。同曲に迎えられたRINO LATINA IIとRHYMESTERのMummy-Dは20年以上のキャリアを持つが、今回は久々の共演。美しいストリングスの旋律が聴き手のノスタルジーをくすぐるトラックの上で、2人がエモいラップをスピットする。

「洋楽のロックばっかり聴いて育った俺に、日本語ラップに入るきっかけを作ってくれたのがこの2人だったんです。この曲のフックはそれぞれのラップと掛け合いが交互に出てくる90sっぽい感じにしたいと思って、レコーディング当日に3人で考えました」。

さらに“REAL STYLE”では、CHEMISTRYの川畑要とOZROSAURUSのMACCHOという異色の組み合わせが実現。「MACCHOくんのラップは日本語ラップのなかでも〈勢い系〉の最高峰。それに歌で対等に戦えて、声もインパクトがあって、というのは川畑くんだと思った」と語る。その他、ラッパーでは「昔からの知り合い」というTarantula(Spontania)とArkitecが“GIMME 5”に参加。いまをときめくSALUが持ち味の物憂いラップを“WANNA BE STRONGER”で聴かせたと思えば、アイドル・ラップ・ユニットのライムベリーは“BRIGHT LIGHT”で快活なフロウを繰り出す。両曲とも人生における戸惑いや心の葛藤を歌っているが、仕上がりのヴェクトルが180度違うのがおもしろい。

「SALUくんのラップは好き嫌いが分かれると思うんですけど、こういうラップが欲しかったら彼しかいないという、誰にも似てない特別さがある。ライムベリーはちょっとヒネリが欲しくてお願いしたんです。彼女たちも3MCそれぞれでスタイルが違う。それに(ライムベリーの)“まず太鼓”は“マス対コア”(ECDの95年作『ホームシック』収録)をネタにしてるし、いろんな意味で気になった(笑)」。



〈どうなの?〉を楽しむ

参加シンガーに目を向けると、“あの日のさよなら”を歌う鷲尾伶菜(Flower/E-Girls)は、これが初のソロ活動。2011年に“Cinderella Story”(山下絵理名義)でデビューしたellieや、「俺好みの男性シンガーを探してたときに友達の友達の紹介みたいな繋がりで知り合った」というゴスペル経験のある新人、植松陽介も味のある声を聴かせる。さらに「オケが出来た時点で、これは超カッコイイなっていう自信作だった」と語る“DON'T STOP THE KILLER TUNE”にはAISHAをキャスティング。90sヒップホップ~R&Bのエッセンスを感じるドラマティックなトラックに乗せ、ファルセットを多用して美メロを紡ぐ。

「彼女のファルセットが好きだったから、それを意識してメロディーを作ったらレコーディングのとき辛そうでした(笑)。〈これは嫌がらせかなー?〉とか思いながら、でも〈がんばろうぜ〉みたいな感じでレコーディングして。〈難しいー!〉とか言いつつバッチリ歌ってくれましたね」。

加えて、三浦大知も全国ツアーと制作の合間を縫って参戦。その楽曲“HOLIDAY”は、メロディーと歌のグルーヴがハンパなし!  夏らしい開放感と爽快感に満ちた特上のR&Bだ。

「一聴するとメロウなんだけど、アッパーっていう仕上がりになったらいいなと。実は生演奏で録ったフレーズを一回トラックダウンしてネタっぽい音を作り、それをMPCに打ち込むっていう面倒臭い作り方をしているんです。そうしてあえてちょっとアナログな味を出した感じにしたかった」。

これまでにm-floのリミックスを多数手掛けているDJ DECKSTREAMだが、自身がライヴDJを務めたm-floの『COSMICOLOR』ツアーが接点になったというメイナード・プラント(MONKEY MAJIK/blanc.)は、「声が綺麗で、とにかく好み」。彼が歌う“RAINDROPS”は、「雨をイメージしてたからタイトルも“RAINDROPS”(笑)。メランコリックな雰囲気を意識していた」と言う。また、中島美嘉“雪の華”やRUI(柴咲コウ)“月のしずく”などの作・編曲者として知られる松本良喜も歌い手としてエントリー。“RAINDROPS”が雨なら、彼が歌う“PROUD OF MY DREAM”は晴れ。アルバムのジョイフルなスパイスとなっている。

「良喜くんは日本のスティーヴィー・ワンダーだなと思っていて。アルバムには明るめな曲も入れたかったし、歌い癖や歌声からすると良喜くんはその役割にピッタリだなと思ったんです」。

今回の参加陣の誰かが好きだったら、それを入り口に他の客演陣の曲にも耳を傾けてほしいというDJ DECKSTREAM。例えばE-girlsのファンがMACCHOに興味を覚えたら痛快。雷時代からRINO LATINA IIを追いかけているヘッズがライムベリーに胸ときめいたらおもしろいじゃないかというわけだ。

「昔って誰かの新譜が出たら〈アレ聴いた?〉みたいな話を友達同士ですることがあったと思うんですけど、最近そういうのがないんじゃないかと思っていて。このアルバムがそういう会話のきっかけになればいいなと思ってます。一見収集つかないようなラインナップだけど、クセが強いって言われる俺の音でまとめることで違和感がないアルバムになったと思うし、〈この人とこの人が入ってるのってどうなの?〉って思われる部分もいっぱいあると思うんだけど、その〈どうなの?〉を逆に楽しんでほしいんですよね」。



カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月14日 17:59

更新: 2013年08月14日 17:59

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/猪又 孝