GREY REVEREND 『A Hero's Lie』
リズミカルに爪弾かれるギター、柔らかい歌声、さまざまな楽器が奏でる不思議な効果音——新感覚のアメリカーナから発せられる優しい嘘に溺れたい
新世代の叙情派フォーク(あるいはブルース)のカリスマが誕生……とでも言うべきか。アコースティック・ギターの弾き語りを基本のスタイルとしながら、グレイ・レヴァレンドことラリー・ブラウンが作る音楽には、フォークともブルースともジャズともつかない不思議な魅力がある。
「自分の音楽を〈モダン・ブルース〉と呼んでいるんだ。〈モダン・フォーク〉でもいい。サウンド自体はいろいろな要素を採り入れているつもりだし、どこにもカテゴライズできないと思う。僕はオリジナルの音楽を作ることにとてもこだわっているんだよ」。
フィラデルフィア出身で、2006年からブルックリンを拠点に活動しているこのシンガー・ソングライターのバックボーンは、父親の影響で聴きはじめたジャズとブルース。10代半ばになるとダインソーJrやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインに熱を上げていたそうだが、大人になる過程でふたたびジャズに開眼したという。
「音楽を聴く時は特にカテゴリーを決めずに何でも聴くけど、新しいものをいろいろと試し聴きするよりは、伝統的なものが好きかな」。
やがてクラシック・ギターを習っていた友人やジョニ・ミッチェルを参考に、アコギを弾きはじめる。曲を書くようになったのはこの頃からだろう。ジャズ・ギタリストのパット・マルティーノから直々にソングライティングと演奏技術を学んだこともあるそうだ。
その後、電子音楽の視点からジャズを解釈するシネマティック・オーケストラと出会い、彼らのツアーやレコーディングに参加した縁で、同グループのリーダー=ジェイソン・スウィンスコーがニンジャ・チューン傘下で運営しているレーベル、モーション・オーディオと契約。2011年に『Of The Days』でワールドワイド・デビューを果たす。それから2年、このたびラリーがリリースした3枚目のアルバム『A Hero's Lie』は新しい表現を求め、さらなる一歩を踏み出したことを印象付ける一枚となった。
「とにかく前よりもっとグレードアップしたかった。これまでできなかったことをやってみようっていう感じはあったかな」。
曲の根底にあるプリミティヴなアメリカーナ感やアコースティックな音の質感は従来と変わらないものの、ストリングスやホーン、みずから演奏したメロトロンをはじめとする多彩な鍵盤楽器など、今回はさまざまな音色を加え、それらをPC上の音楽ソフトも使いながらひとつの作品にまとめ上げている。なかでも無骨な弾き語りにストリングスをあえて切り貼りしたように重ねた“My Hands”、オルガンの音色をサイケデリックな音響として使った“This Way”、オーケストラルなサウンドが曲の世界観をダイナミックに広げる“Fate”といったナンバーは、彼がプロデューサー/トラックメーカーとしても類い稀な才能の持ち主であることを窺わせる。さらに、昨年22歳の若さで急逝したピアニストのオースティン・ペラルタが繊細なピアノを加えたブルージーなナンバー“The Payoff”では、都会的な洒脱さも表現。これまでのグレイ・レヴァレンド作品を追ってきたファンなら驚くはずだ。
そんな新感覚のフォーク/ブルースを提示してみせた『A Hero's Lie』。きっと、前述したシネマティック・オーケストラやボノボといったエレクトロニカ系のアーティストとの共演経験も大きなインスピレーションとなったに違いない。そして彼はインタヴューの最後にこんなコメントを残してくれた。
「アルバム自体をピュアで人間らしいものにしたかったんだ。僕は別に天才的なソングライターじゃないから、ラジオでヒットを生み出すような音楽は書けないけど、僕自身を表現するということは心掛けているよ。結局のところ自分が納得のいく、自分が楽しむための制作活動だね」。
弾き語りスタイルには収まり切らない音楽観も含め、ようやく自分自身を表現できたという満足感がいまの彼にはあるのだろうか。いずれにせよ、本作がグレイ・レヴァレンドのキャリアにおいて重要な一枚になるであろうことを、筆者は確信している。
▼関連盤を紹介。
左から、グレイ・レヴァレンドの2006年作『A Startled Wish』(Sugarcut)、同2011年作『Of The Days』(Motion Audio)、シネマティック・オーケストラの2012年作『In Motion #1』(Ninja Tune)、オースティン・ペラルタの2011年作『Endless Planets』(Brainfeeder)、ボノボの2013年作『The North Borders』(Ninja Tune)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年08月28日 17:15
更新: 2013年08月28日 17:15
ソース: bounce 358号(2013年8月25日発行)
インタヴュー・文/山口智男