KANKAWA
バラードの真髄は、ハーレム・ジャズの奥義と、自身の矜持にあり
「アルバム聴いた? 変わってるだろ、僕の芸風じゃないからな」。そう言われて「ええそうですね」と応えるわけにはいかない。そんな一言から話は始まった。
確かにKANKAWA初のバラード集である本作は、これまで様々なスタイルを網羅してきた彼のディスコグラフィからみても異色といえる一枚。収録曲も、あの定番《ホテル・カルフォルニア》や《ミッシェル》といった今までは考えられなかった曲が並ぶ。
「今までずっといろんな冒険してきたわけだ。ロックからフュージョンから、最近のフリージャズみたいなのとか。そっちはまあメンバーとかアレンジとかで何とかなるけど、自分のなかで一番オーソドックスな存在であるハーレム・ジャズ。まあビバップより少し色濃い本流のジャズ。それは簡単にはどうにもならない音楽なんだね。それが1年前のアルバム『ソウル・キッチン』で、完璧ではないけれどまあ納得できる演奏ができたな、と思えたんだ」。自身のトリオにギターの和田直を加えて録ったアルバムを手に、KANKAWAはいろいろな場所に演奏へ出かけたというが、これは「僕にしては珍しい」ことなのだという。
「大震災が僕にずいぶん影響を与えたね。阪神淡路の時はNYにいたので、よく知っている街が燃えていても、やっぱり遠い場所の出来事。でも今回はずっとテレビで津波の映像を、それもリアルタイムで見せられたからね。その後に何度か東北にも出かけているわけだけど。それがきっかけでだいぶ僕自身変わったと思うね。今までは俺が楽しければいい。だったのが、人に喜んでもらえる俺が行きたいな、という気持ちになったんだ。オルガンだけでなく、終わったあとの打ち上げも含めてさ。ともかく「ありがとう」という気持ちが強くなった。そしてこっちがその気持で弾くと、みんなもすごく感動してくれる。面白いもんやね。それに今はライヴで沢山しゃべるんですよ。音楽だけでなく政治から原発の話まで……音楽をする以上、嘘はつけないから正直にね。そうするとみんなが僕の音楽をさらに理解してくれる。そして、男も女も泣くんだな。ずっとやってきたけど自分の演奏で泣いてくれたのは初めてだよ。だから思い切り演奏して、思い切り飲んで。だから面白くてたまらない。もうわくわくしてるね。ともかくまあ、そんなことがいろいろあって、自然と生まれたアルバムなんだな」
街を見下ろすラウンジで、煙草とグラス片手にしたKANKAWAの話を聞いていると、時折オルガンをガンガン鳴らす姿がダブって見えるようだ。鍵盤からだけでなく言葉から、立ち居振る舞いからジャズが流れ出す。そんな人こそKANKAWA。なのだ。