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インタビュー

青葉市子

ともに自由であるかぎり音楽は曇らない
~なんとも豪華な妖精たちとの共演

何も考えず自由にやって。でないと音楽がきらめかないから、と細野晴臣が青葉市子に告げたのは、今年元旦 のNHK-FM「坂本龍一 ニューイヤー・スペシャル」に際してのことだった。それ以来「その言葉は宝物になりました」と青葉市子はいう。後に『ラヂヲ』となるその番組には、青葉市 子と細野晴臣、ホスト役の坂本龍一のほか、小山田圭吾とU-zhaanの5人が参加していた。青葉市子は個別に面識はあったが一堂に会したのははじめて で、このときの音源をリリースするにあたり、青葉市子と妖精たちと名づけた。

「音源を聴いたときに、4人が出す音が、そこでじっとしているというより、歌のまわりを飛んだり、何かを運んだり、水浴びしたり、そういうふうなイメージ がわいたので」彼女は4人を妖精に見立てたが、『剃刀乙女』『檻髪』『うたびこ』、彼女の3枚のアルバムからの楽曲も、妖精たちの助けをかりて、「ふだん は歌とギターだけなので音数が少ないんですけど、一曲一曲に鳴っている音がオーケストラみたいにたくさんあって、元々曲がもっていた音像がみんなに聞こえ るようになっていく気がした」という。それは曲がようやくあるべき姿になったというのではなく、音を出してはじめて気づく類の発見であり、青葉市子にとっ ても自身の楽曲と出会い直す経験だった。一曲のなかで次々と曲調の変わる《IMPERIAL SMOKE TOWN》や《日時計》はよりダイナミックに、《重たい睫毛》《奇跡はいつでも》の静けさはさらに鮮明になり、いずれの楽曲にも心地よい緊張感がみなぎっ ている。言葉と音をきりつめて生まれる余白を想像の呼び水にする弾き語りのスタイルとの差異がそこにはあるが、『ラヂヲ』における他者の存在は余白を狭め るものではなく、冒頭の細野の言葉を敷衍すれば、ともに自由であるかぎり音楽は曇らない、ということなのだろう。青葉市子と四者との共演で生まれた余白は ラジオの電波のように成層圏まで届き、私たちは陽の当たる場所に立てたトランジスタ・ラジオがキャッチするようにそれを受けとめる。《STAR FRUITS SURF RIDER》《悲しみのラッキースター》《Smile》の3曲のカヴァーは既視感をくすぐるが、演奏者にとってそれは音楽のなかにいる他者を受け入れるこ とでもある。

「音楽って食べものといっしょで、それによって身体が形成されていくのだと思う」から、作り、歌い、聴く ことを含めた日々の暮らしが音楽を影響する。現在制作中だという彼女の4枚目のアルバムについても例外ではなく、青葉市子は仕上がりが「楽しみ」といつも の小さなよく通る声でいった。こちらこそ、と『ラヂヲ』を聴いたひとなら返したくなるでしょう。

LIVE  INFORMATION
『出張ラヂヲ』 
出演:青葉市子  ゲスト:小山田圭吾
●9/11(水)18:30開場/19:00開演
会場:京都・磔磔
●9/16(月・祝)
【1st】開場15:00/開演15:30
【2nd】開場18:00/開演18:30
会場:福岡・美容室グラム

http://www.ichikoaoba.info/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年09月03日 12:56

ソース: intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)

interview&text:松村正人