スピッツ 『小さな生き物』
今回は<はっきりと手短に伝えたい>っていう思いが楽曲作りにあったんですよ。
草野マサムネ(Vo.&Gt.):会うのも3年ぶりなんて……そんなに久しぶりの感じがまったくしないんですけど(笑)
﨑山龍男(Dr.):中華料理食べながら取材したのっていつだっけ?
三輪テツヤ(Gt.):すごい昔(笑)。たしか6年ぐらい前だよ。
田村明浩(Ba.):『スーベニア』の時とか?
﨑山:そんな前なんだ(笑)
という感じで久しぶりに会う彼らは相変わらずのマイペース。1年に何回も作品をリリースし、しょっちゅう取材で顔を会わせるアーティストが多いなかで、スピッツのように2年とか3年というタームでアルバムをリリースするアーティストはもはや貴重だ。
三輪:この3年、ずっとライブしてたよね。
草野:だいたい去年の夏のイベントが終わった頃にアルバムの制作期間に入って。それまではいつも通りコンスタントにライブをやりつつ……でもその間に震災があって
そういえば震災から1ヵ月後に彼らのライブを観たのだが、あの時もスピッツはいつも通りだった。今回久しぶりに会って「相変わらずだな」と思ったのと同じように、スピッツはそこにいるのが当たり前のようにシンプルなバンドとして存在していた。そして今回の『小さな生き物』も同様だ。これまで以上にシンプルなバンドサウンドとメロディに徹することで、楽曲の振り幅が広いなかにも太い芯のようなブレない強さが感じられる。つまり、3年という歳月のなかで時代がどう変わろうとスピッツはスピッツであり続けようとする、そんな強い思いがここにはある。
草野:シンプルっていうテーマは前のアルバムでも言ってたよね?
田村:単純に、メタルが好きだったりフォークが好きだったりっていう4人が、その雑食性のままやったらこうなったというか
草野:2012年に作った曲ばかりなので、その時代を反映しているというか、その統一感はあると思う。歌詞も含めて
「時代を反映している」と言っても、もちろん社会的なメッセージを投げかけているわけじゃない。でも、この3年という歳月のなかで彼らが感じたこと、思ったことがかなりストレートに反映されているのは確かだ。シンプル、ということは、そのぶん彼らの思いが届きやすい、ということでもある。スピッツというバンドの今。俺たちの今。それをちゃんと伝えたい、ということなのだろうか。
三輪:そういえばこのアルバム、<最近の俺たち>っていうタイトルにしようっていう話もあったもんね
田村:でもスピッツはいつだってシンプルだから。バンドの核にあるのは<ギターバンド>だっていうのを、長くやればやるほどわかってくる。もっと言うと、それしかできない(笑)
草野:今回は<はっきりと手短に伝えたい>っていう思いが楽曲作りにはあったんですよ。だから今回は長い曲がない
ここまで彼らが伝えたい、という思いをあからさまにしたことがあっただろうか、と感じる。もちろんシンプルとはいえ、彼らはロックバンドとしての開拓精神を失ってはいない。フィドルが導入されたアイルランド調のナンバー“野生のポルカ”や、スリリングなバンドサウンドにマサムネがスキャットを繰り返す“scat”といった新境地には驚かれるばかり。つまり、いつも以上に多彩で振り切れたアルバムだと言える。それでも全13曲が一本の芯のようなもので串刺しにされたような統一感があるのは、やはり<今の自分たちを伝えたい>という思いが強いからなのだろう。そこまでして、どんな自分たちを伝えたかったのか。それはぜひ、自分自身の耳で確かめていただきたい。当たり前に存在し、当たり前のようにスピッツはスピッツとしてあり続ける彼らの思いを。そしてリリースから3日後、彼らは16年ぶりに野外でのワンマンライブ「スピッツ 横浜サンセット2013」を赤レンガパーク野外特設会場で開催。ぜひこちらにも足を運んで、<彼らの今>を感じてほしい。
﨑山:赤レンガは雨さえなければ風が気持ちいいところなんで
田村:そういえばサキちゃん、下見に行ったんだって?
三輪:でもドラムセット組むのはまだ早いよ(笑)
■ALBUM…『小さな生き物』 9/11 on sale!
■Song List
1. 未来コオロギ
2. 小さな生き物
3. りありてぃ
4. ランプ
5. オパビニア
6. さらさら
7. 野生のポルカ
8. scat
9. エンドロールには早すぎる
10. 遠吠えシャッフル
11. スワン
12. 潮騒ちゃん
13. 僕はきっと旅に出る
14. エスペランサ
■Live…スピッツ 横浜サンセット2013
9/14(土) 神奈川・横浜 赤レンガパーク野外特設会場
■Profile…スピッツ
1987年に草野マサムネ(Vo.&Gt.)、三輪テツヤ(Gt.)、田村明浩(Ba.)、﨑山龍男(Dr.)の4人で結成されたロックバンド。1991年にシングル「ヒバリのこころ」とアルバム『スピッツ』でメジャーデビュー。耳馴染みの良いメロディとボー
カル草野の透き通る歌声は、今も多くの音楽ファンを魅了し続けて現在の音楽シーンのなかでも異彩を放つ稀有なバンドである。
記事内容:TOWER+ 2013/9/10号より掲載