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インタビュー

OUTFIT 『Performance』



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求心力を持ったメランコリックなメロディーが、クレヴァーな歌詞に彩られる。英リヴァプール出身の5人組、アウトフィットを語る際にトーキング・ヘッズが引き合いに出されるのも納得。さらに付け加えると、エコー&ザ・バニーメンを筆頭とした80年代リヴァプール産サイケの遺伝子に、トリップ・ホップやポスト・ダブステップ、チルウェイヴの影響も。例えるなら、地獄のなかに楽しみを発見しちゃってほくそ笑んでいるような、絶望と希望の間にあるいちばん心地の良い場所でまどろんでいるような、哲学的な思索が何回転もしてポップに昇華したような、そんな音楽。わかりにくいって!? 彼らのファースト・アルバム『Performance』に収録されている“Thank God I Was Dreaming”を聴けば、このニュアンスがきっと伝わるだろう。身体を揺らしたくなる程良いテンポのサイケ・ポップで、くぐもった中性的な声が摩訶不思議な夢の世界を描く。メンバーのアンドリュー・ハント(発言:以下同)はこう語ってくれた。

「表現したかったのは、ここ最近恐ろしいニュースがいくつも続いていることに対する信じられない気持ちだった。NYにいる僕の彼女も影響を受けたハリケーン・サンディや、シリア情勢、プッシー・ライオットの刑罰、それからフクシマのこともね。世界では数々の大きな問題が起こっていて、すべてが夢のなかでの出来事なんじゃないかと思えるほど。“Thank God I Was Dreaming”自体はもっと抽象的に作られているよ、音楽は詩のようなものだからね。でも、こういった事柄から逃れ、ただシンプルに存在していたいと思う感情を楽曲にしたかったんだよ」。

このナンバーをはじめ、アルバム収録曲はすべてセルフ・プロデュースによって作られた。彼らの手法は徹底的にDIY。スタジオまでみずから建てるほどの筋金入りだ。

「一時期はロンドンにいたけど、ふたたびリヴァプールに戻ったのは、安く借りられて、このアルバムの制作を好きなだけできる場所が欲しかったから。僕らの住むバルティック・トライアングル地区は、凄くおもしろいエリアになってきたよ。溜まり場も次々とオープンしているしね」。

それはさおき、近年のインディー・ポップ/ロック・シーンと言えば、DTMの発達で徐々にソロか2人ユニットが主流になってきたのに、彼らはバンドという形態にこだわっている。そこにも独自の哲学があるようだ。

「ソロ・プロジェクトのほうが、金銭面も含めて簡単だよね。でも、経済的な理由が芸術的な物事に影響を与えるなんて、僕は凄く嫌なんだ。それに、メンバー一人一人に異なった技術があるわけで、ちゃんとした方向へ進めばとてもパワフルになる。僕らは自分たちのスキルをチャネリングすることで、どんどん良くなっていると思うよ。バンドはデリケートなシステムさ。人間性や仲間との関係、エゴ、嫉妬、野心、愛といったものを露わにする。でも、それがバンドには必要なんだ。だから楽曲が特別なものになるんだよ」。

UKから次々とニューフェイスが登場し、新たな大波が生まれつつある昨今。そんななかでもサイケなダンス・ロックに軸足を置くアウトフィットのスタンスは独特であるが、最近になってようやく音楽仲間も増えてきた模様だ。

「ずっと孤立しているように感じていたよ。でも近頃はちょっと変わってきた。エヴリシング・エヴリシングやダッチ・アンクルズといったバンドは、僕らと似た雰囲気のプログレッシヴなポップ・ミュージックをやっている。完璧主義者で、よく音を練り上げているところが共感できるね。あと、物凄く幅広い音楽に影響されたエレクトロニック・ミュージックを作っているニコラス・ジャーやカリブーなんかも、僕らと同じものをめざしている気がしてとても励みになるよ」。

勢い一発ではなく、〈芸術としてのポップ・ミュージック〉のパワフルさを知るからこそ、彼らは自分たちの力で徹底的に音を磨き抜くのではないだろうか。『Performance』を聴くごとに、そんな思いがよりいっそう強くなる。



PROFILE/アウトフィット


アンドリュー・ハント(ヴォーカル)、トーマス・ゴートン(ヴォーカル/シンセサイザー)、ニック・ハント(ギター)、クリス・ハッチンソン(ベース)、デヴィッド・バーガー(ドラムス)から成る5人組。ミュージシャンやデザイナーなどが共同生活を送るリヴァプールの〈The Lodge〉で出会い、2010年にバンドを結成。2011年夏にロンドンへ移り、9月にはダブル・デニムからファースト・シングル『Two Islands/Vehicles』を発表。2012年5月にリリースしたEP『A.N.D.R.E.A.』が、Pitchforkで高く評価される。その後ふたたび地元に戻り、〈The Lodge〉を自分たちでスタジオに改装。このたびファースト・アルバム『Performance』(Double Denim/MAGNIPH)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月19日 20:50

更新: 2013年11月19日 20:50

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

インタヴュー・文/妹沢奈美

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