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インタビュー

雲井雅人サックス四重奏団



雲井雅人SQ_A



マスランカは、アメリカ留学時代に出会った特別な存在

人の声に近いサックスの音色は、オルガンの持つ柔らかくも荘厳な響きに近いことをも発見した。雲井雅人(ソプラノ)と彼の弟子たち、佐藤渉(アルト)林田和之(テナー)西尾貴浩(バリトン)というサックスの第一人者集団「雲井雅人サックス四重奏団」。彼らの3枚目となるアルバム『マスランカ:ソングス・フォー・ザ・カミング・デイ&生命の奇跡』を聴いてのことだ。驚嘆すべき作品、そして演奏。このマスランカの作品は9楽章から成り、3つの楽章には古いキリスト教の讃美歌が現われる。バロックより昔の宗教音楽と現代音楽との稀有の邂逅に聴き入る。

「マスランカの書くどのジャンル、形態の音楽にもその特徴があると思うが、特にこの作品はそれが濃厚かもしれない(雲井)」「僕らが言い出しっぺですが、この作品は委嘱料のこともあり、アメリカを含む他の団体との共同委嘱です。が、作曲途中で東日本大震災が起きてしまった(林田)」「震災がなかったら9楽章もあるこのような作品になっていたかどうか(雲井)」「彼は震災後すぐに大丈夫かと連絡をくれて、影響を作曲に反映させないわけにはいかないとおっしゃいました(佐藤)」「彼自身ショックのあまり、作曲が中断してしまったんです(西尾)」「実は僕と佐藤君との共通の先生、ノースウェスタン大学大学院のヘムケさんの退職記念コンサートで世界初演するはずでしたが、間に合いませんでした(雲井)」「しかし、出来上がった作品は決して安っぽい癒しの音楽ではありません(林田)」

マスランカはバッハの研究家。モンタナの大自然に住み、「アメリカ人には珍しく非常に寡黙(佐藤)」。「ムーミンのスナフキンと同じ目をしている(雲井)」。こんなマスランカは作曲する時に儀式があるという。まずバッハのコラールを一つ取り上げてピアノで弾き、歌ったりしながら作曲の精神状態に入って行き、内なる声をインプロバイズする。そこから発想を広げるらしい。そんな作曲家との出会いは、雲井がアメリカ留学時代に彼の作品を初演した時。雲井は「特別な人、作品」と深く心に刻んだという。「彼の音楽は全てを超えてダイレクトに内に伝わってくるのですから」。雲井はその後、彼の《サクソフォーン・ソナタ》《サクソフォーン協奏曲》の日本初演を果たし、雲井カルテットのデビュー・アルバムも彼の《マウンテン・ロード》。日本初演だ。彼らの説得力ある演奏や音楽観に対するマスランカの信頼は非常に厚い。それを物語るようにバッハの《ゴルドベルク変奏曲》の編曲譜が、ある日突然プレゼントとして送られてきたという。サックスの可能性が雲井カルテットによってさらに広がっていく。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年10月10日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview&text:山口眞子