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インタビュー

沢知恵



音楽家として貫くべきこと

沢知恵_A

傑作ライヴ・アルバム『一期一会』が出たのは2002年。私はこの11年間、ずっと愛聴してきたが、ようやくその続編『一期一会Ⅱ』がリリースされた。前回同様、ピアノ弾き語り(一部でサックス/ピアニカの中村哲が参加)アーカイヴ音源から編まれた2枚組。すべて未CD化の計22曲から伝わってくるのは、音楽にいかに向き合い、音楽家としてどのように生きてゆくべきなのか、という彼女の自己確認の強い意志である。新たな決意表明のための作品と言っていいかもしれない。ずっと慰問コンサートを続けてきた瀬戸内海のハンセン病療養所での音源をはじめ、少年院の子供たちのために作った歌、震災で傷ついた人々に捧げた歌、愛しい幼子たちに語りかける童謡、そして神への祈りとしての歌…どの歌も、この10年ほどの彼女の活動の軌跡と密接に結びついたものばかりであり、沢知恵そのものといっていい。ブックレットには、ハンセン病療養所での生々しい写真などもあしらわれているが、こうした彼女の身振りには、てらいも躊躇も一切ない。

「これは私にとっては震災音楽。あれを境に私自身変わったし、それまで手探りで、これでいいのかなと進めてきたものが、改めてはっきりした。つまり、人と地道につながり、シェアしてゆくという音楽活動のやり方、スタイルをとことん貫いてゆこうと」

歌詞/言葉の深い解釈と表現にも、ますます凄みを感じさせる。彼女は過去にも、モンゴル800やブルーハーツ、さだまさしなど、意外だけど絶妙なカヴァー・ワークによってその歌の魅力を我々に教えてくれたが、今作でも宮川彬良や玉置浩二、海援隊、中村中などの作品を素晴らしい表現力で歌いきっている。とりわけ、《朝のリレー》など詩人・谷川俊太郎の作品が3曲も入っているのは見逃せない。

「震災後に気づいた。彼の言葉は軟弱なんです。つまり、男だということ。だけど、やさしい。そしてメッセージがある。孤独に包まれた中の触れ難い部分がとても魅力的。震災後、私は厳しい言葉を使いたくなくなった。そして、谷川さんの言葉がますます大事に思えてきた。彼の詩、言葉の本当の強さが、こういう時代だからこそますます際立ってきたんだなと思う」

そんな沢が次に予定しているのは、谷川作品だけを歌ったアルバムの制作だという。更に、将来的には、日本の現代詩をテーマにしたコンサートを海外でやりたいとも考えているそうだ。震災地で慰問コンサートを続けつつ、全国各地で年間50本のライヴを独力でおこない、CDの梱包や発送まで自分でやる、真にオルタナティヴな音楽家。『一期一会Ⅱ』には、その闘志が熱く脈打っている。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年11月04日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview&text:松山晋也