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インタビュー

三浦大知 『The Entertainer』



まだ自己紹介の必要はある? 理由もなく心が躍る音楽と共に、もっとダイレクトに迫る4度目の三浦大知——身震いするようなエンターテイメント知ってるかい?



三浦大知_A



いま言い切ってしまおう

「自分としては、終わりと始まりみたいなものは常にセットになっていて……何か終わった瞬間に始まっているので、結局は終わりも始まりもないという考え方にいつも自然となっている気がしますね。だから、例えば〈やっと横浜アリーナでできた〉っていう思いは逆になくて……もちろんありがたいし嬉しいんですけど、武道館の時も〈ここに立った後のほうが勝負だろうな〉って思ってましたし、いつもそこは周りの皆さんに支えていただきながら、常にチャレンジャーとして取り組んでいる感覚ですね」。

一昨年のサード・アルバム『D.M.』が作品的な評価の面でもチャート成績の面でも自己最高を更新し、昨年5月には初の日本武道館公演を成功に導いた三浦大知。その後には初のホールツアーで全国を回り、今年6月から続く「DAICHI MIURA LIVE TOUR 2013 -Door to the unknown-」では追加公演のファイナルにて横浜アリーナ公演を敢行したのも記憶に新しい(その後、異例の再追加公演も!)。傍目には好調すぎるほどのステップアップを果たしているわけだが、もちろんそれは単純にセールスや動員数といった規模の話ではない。例えば同ツアーでは〈未知への扉〉という掲題の通り、未発表の新曲をいくつもセットに組み込む野心的な試みも話題になったものだ。

「曲についてはもう、絶対カッコいいという自信があったので、お客さんの反応にシメシメと思いながら(笑)パフォーマンスしてました。いいものはいいし、絶対に伝わるっていう確信が深まりましたね」。

そうした演出家/パフォーマー/コレオグラファーとしての向上心とレコーディング・アーティストとしての意欲が相互に作用し、クリエイティヴな両輪となって、現在の大知を着実に前へと進めているのは言うまでもない。そして、今回届けられた4枚目のアルバムは、ズバリ『The Entertainer』と題されている。

「自分では逆に思いつかなかったんですけど、タイトルについて話し合いをした時にスタッフから挙がってきて、即決しました。これはいまだ、いま言い切ってしまおう、って」。

実は前作『D.M.』のリリース後にはもう「次に向かう気持ちで」次作を思い描いていたそうだが、そのヴィジョンが「感覚的にこれでイケるな」という像を結んでいったのは昨年の末頃だという。ひとつのきっかけとなったのは、シングル“Right Now”のMVを撮りに滞在したLAで、現地のトラックメイカーやソングライターたちと曲作りのセッションを行ったことだった。そのMVはケオネ・ マドリッド(世界的なダンサー/コレオグラファー)と振付を共作し、内外のトップ・ダンサーとの共演で話題を呼んだが、その裏にはまた別の実りもあったというわけだ。

「日本にいるより過密スケジュールだったんですけど(笑)、楽しかったですね。東京だとフットワーク軽くいろいろできちゃうけど海外だとナチュラルにストイックになれるというか、気付いたらスタジオにいてみんなで曲を作ってるというあの感じは心地良かったです。いろんな人と〈三浦大知の音楽〉っていうものを遊ぶことができて、それがアルバムの大枠を形作ってくれました。例えば“Gotta Be You”はヴェニスに泊まっていて、そこでの風に吹かれて生まれてくる気持ちみたいなものにフィットした曲だったので、場所が作らせた一曲だなと思ったりもしますし、そこでしか作れないものが作れたかな」。

その“Gotta Be You”も含め、プロデューサーのT-SKも交えてナーヴォ(デヴィッド・ゲッタの“When Love Takes Over”を筆頭にケシャやカイリー・ミノーグとのコラボで知られる双子の姉妹ソングライター/ヴォーカリスト/DJチーム)とスタジオ入りした経験は特に、そこで生まれた楽曲以上のものを大知にもたらした。

「ナーヴォはアイデアを取捨選択するスピードがめちゃくちゃ速いなと思って、それは本当に刺激になりましたね。その、最初の感覚をしっかり曲に乗せて思い切りやるっていうことの純粋さは持ち帰りたいなと思ったし、自分が今後クリエイトしていくうえで重要なエッセンスになると思いました」。



より振り切った音楽

アルバムに取り組むうえで大知の根底にあったテーマは、「〈振り切ったもの〉を作ろう」というもの。「よりインパクトがあって、より三浦大知の音楽をおもしろく広げていくにはどういう曲が必要だろう?」という命題に則ってさまざまな方向にビュンビュン矢印を伸ばした楽曲群が『The Entertainer』という表題に恐るべき説得力を与えている。アルバム冒頭を幻想的に染め上げるのは、先述のツアーでも未知の曲としてオープニングを飾っていたNao'ymt製の“Can You See Our Flag Wavin' In The Sky?”だ。アンビエント系、もしくは生音の復権という昨今のR&B界隈における真逆のトレンドを両獲りしつつ、そのどちらでもない独創的なサウンドの奥行きに、大知の歌唱が浮遊しながら溶け込んでいく。

「EDMと呼ばれるものが全盛の頃にNaoさんから曲をいただいて、どう呼べばいいのかわからないけど何か凄いものを聴いているのかもしれない……という感覚になったんですね。やっぱりそのカテゴライズできない感覚が今回のキーじゃないかと思って、最初とラストがNaoさんの曲になりました。最後の“all converge on "the one"”もそうですけど、Naoさんって、歌詞における聴き手との距離感みたいなものの取り方が抜群だと思っていて、抽象的でもあり、でもグッと心に迫ってくる感じで、セクシーでもあり……。聴く人によっていろんな色になるのも音楽のいいところだと思うんですけど、Naoさんの曲は本当にいろんなふうに解釈できて、なおかつ響くものになっていて、流石だなと思いましたね」。

一方、〈振り切ったもの〉という言葉を直情的に届けてくれるのは、先述のシングル“Right Now”に続いてT.Kuraとmichicoを起用した“I'm On Fire”だろう。過剰なまでにブチ上げる緩急自在のビキビキなブロステップ・サウンドに乗せ、しまいには大知が雄叫びを上げる展開の馬鹿馬鹿しさ(ホメ言葉)が問答無用にカッコいい。

「これは何だ!?って手を叩いて笑って盛り上がれるような曲というか、僕はカッコいいの最上級は〈爆笑〉だと思っているので、これはいいぞ(笑)と思いながら、みんなで笑って録りましたね。あと、“Right Now”の時にmichicoさんのヴォーカリゼーションの導き出し方には凄く影響を受けた部分があって、〈こういうふうにしてみたらこういう声が出るんじゃない?〉とか、楽器としての自分の声からいろんな可能性を引き出してもらって、凄く楽しかったですね」。

そのようなT.Kuraチームとの仕事がEDMの流れに真正面から相対したアグレッシヴな成果だとすれば、ファンキーなホーンが牽引するT-SK製の“GO FOR IT”は、「新しいものと原点にあるもののハイブリッド」を狙ったアップ・ナンバー。また、「闘いに行く前の登場曲っていうか、デモのタイトルは〈ロッキー〉だったんですけど(笑)」という“Blow You Away!”は、以前スケッチ段階までUTAと作っていた曲を今回仕上げたものらしいが、マーチング・バンド調のビートがリズミックに鼓舞する勇ましさはこれまたバッチリなタイミングでのお披露目だと言えそうだ。

さらに、JD・ウォーカーによる夢心地なミディアムに大知が詞を書いた“Baby Just Time”もLAでの収穫のひとつ。ここではトラップを含有したビートに合わせてフロウする歌と男らしい言葉の佇まいが心地良い。また、海外勢との手合わせでは、ネプチューンズのチャド・ヒューゴによるミッド“Chocolate”が大人っぽいスムースネスを供与しているのも注目だろう。

そして、〈振り切ったもの〉というテーマは当然スロウ・ナンバーにも当てはまる。先行シングルの“Two Hearts”もロウな歌い口で綴られたバラードだったが、アルバム終盤のハイライトとなる“Listen To My Heartbeat”はピアノ一本で誠実な胸の内を明かす、これまで以上にバラードらしいバラードだ。

「年齢的にもバラードに対しての寄り添い方が変わってきたというか、より振り切って作れたらいいなと思って。これはT-SKさんとピアノ・バラードを作りたいと話していて、LAで作ってきた曲ですね。T-SKさんのアイデアで心臓の音が足されて、そこからナーヴォが〈Listen To My Heartbeat〉というキーワードを出してくれて。歌詞は自分でもどうやって完成したか覚えてないぐらい、〈決意の曲〉を書こうと思ったところからスッと書けましたね」。



理屈じゃないもの

というわけで、さまざまなアイデアの応酬と試行錯誤を経て完成を見た『The Entertainer』には、「自分でクリエイトする曲と、作っていただいたものを表現者としてエンターテイナーとして完成させるっていう曲と、僕は両方ともエンターテイメントだと思っているし、どっちも自分に必要なんじゃないかなと思ってるんです」と語る通り、プロデューサー/ソングライターとして、ヴォーカリストとして、さらに視野を広げつつ成長を遂げた大知の姿がある。しかも、いまの彼からは、ストイックながらも余裕が伝わってくるのだ。

「『D.M.』もその時にしか作れなかった最高のものだと思ってますけど、自分の名前(イニシャル)を付ける作品ってことで、意気込んでた部分は確かにあったと思うんですよ。今回はその土台があるので、もっといろいろ遊べたし、おもしろく振り切ることができたので、そのワクワク感みたいなのがしっかりパックできたなと思います。いろんな枷が外れたというか。いままでは期待に対して120%で返さなきゃみたいに思いすぎてて、たぶん真面目だったんじゃないかな。今回は不真面目になったんじゃないかと思います(笑)」。

そう笑う彼に、〈エンターテイナー〉像について訊いてみた。

「最近思うのは……いろいろなことにちゃんと愛がある人かな。音楽に対してもそうですし、ライヴの空間でいえば、客席からどう見えるのか、演奏する側はどうか、お客さんの表情はどうか、ひとつひとつが連鎖していくんですけど、その細かいひとつひとつに愛を持って気を配ることができる人。エンターテイメントって理屈じゃないもののことかなと思っていて、僕も子供の頃から海外の曲とか聴いてましたけど、その頃はジャンルっていう概念も知らないし、言葉もわからないんだけど、聴くと何か心がワクワクしたり、踊りたくなったりするっていうのは、理屈じゃないからですよね」。

理屈じゃないものを創造する人——『The Entertainer』というタイトルがいまの三浦大知に相応しいものだということは、もう言わなくてもわかるだろう。



▼三浦大知のDVD/BD作品。
左から、武道館公演を収めた「DAICHI MIURA LIVE 2012 "D.M." in BUDOKAN」、ライヴCDとのセットで東京国際フォーラム公演の模様を収めた「DAICHI MIURA exTime Tour 2012」、自身の振付けによる楽曲を収めたMV集「Choreo Chronicle 2008-2011 Plus」(すべてSONIC GROOVE)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月20日 18:01

更新: 2013年11月20日 18:01

ソース: bounce 361号(2013年11月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次