禁断の多数決 『アラビアの禁断の多数決』
あの藤子不二雄と同じく富山で生まれた〈少し、不思議〉な音楽集団が、さらに〈奇妙奇天烈摩訶不思議〉な新作を完成! そのなかで広がる途轍もなくキャッチーなサイケデリック・ワールドは、果たして本当にアラビアなのか!?
奇妙奇天烈摩訶不思議
富山が生んだ巨匠、藤子不二雄はあの〈青い猫型ロボット〉が活躍する代表作のなかで、さまざまな〈ひみつ道具〉を用いて人類の夢を叶えてみせた。なかでも究極と言えるのが〈どこでもドア〉だ。世界中を一瞬で行き来できるその途方もない利便性は、一方でこの世の秩序が一気に崩壊する恐ろしさを孕んでいる。そんな、ある意味で〈禁断〉の道具の音楽版みたいなアルバムを脳内四次元ポケットから取り出してしまったのが、藤子先生と同じ富山出身の〈少し、不思議〉な音楽集団、禁断の多数決だ。
昨年の初作『はじめにアイがあった』では、藤子F的な人懐っこいポップセンスと、藤子Aの如きサイケなぶっ飛び感、そして日本古来のお祭り感がグルグルと渦を巻く〈奇妙奇天烈摩訶不思議〉なワールド・ポップ・フェスタが盛大に開催されていた。そして、約1年ぶりとなるニュー・アルバム『アラビアの禁断の多数決』でも、曲名を見る限り、その内容に変化はないようだ。アラビアからスタートして、アムステルダム→マハラジャ(インド)→練馬→バンクーバー→アイヌ民族の土地→アイルランドと、全国各地をどこでもドアの如く瞬時に行き来する大冒険が聴き手を待ち構えている。
「ジャケにも表れているんですけどバックパッカー的な思想が好きで、世界中を放浪する雰囲気を表現したかったんです」(ほうのきかずなり:ヴォーカル/サンプラー/ドラムス)。
そう語るのは、メイン・ソングライターにしてリーダー的な存在であるほうのき。彼を含むメンバーは総勢6名だ。ほうのきが膨らませた妄想を音楽的にまとめるはましたまさし(ギター/ベース/シンセサイザー/ヴォーカル)、レコードから採取した〈ヘンな音〉で合いの手を入れるシノザキサトシ(別名〈日本のジオロジスト〉、サンプラー/シンセサイザー/ギター/ヴォーカル)から成る3名の男性陣に、ローラーガール(相撲好き)、尾苗愛(アイドル好き)、ブラジル(元・処女ブラジル、留学中)の女性ヴォーカル3名が各々で〈禁断の世界〉を築き上げていく。
「みんなでネットを介してアイデアを出し合って、そこにスタジオで録った音を加えてトラックを作りました。で、出来上がったものをまたみんなに送って歌を乗せてもらって」(はました)。
こうなっちゃった
ただ、意外(?)にも今回の新作でもっとも印象に残るのは、メロウでスウィートなポップ・チューンがグッと増えたことだったりする。国籍不明のローファイなサイケ感が跳梁跋扈していた以前の世界観が一気に洗練され、ある意味ハイファイで、そこはかとなくお洒落なムードすら生まれているのだ。
「実は最初に50曲あって、〈ポップなアルバム〉と〈オルタナなアルバム〉を2枚同時に出す予定だったんです。でも、スケジュールの都合で前者だけがリリースされることになっちゃって」(ほうのき)。
なるほど、結果的に〈そうなっちゃった〉というのが何とも彼ららしい。そんな〈偶然のポップ・アルバム〉を代表するのが、前半に収められた“トゥナイト、トゥナイト”と“真夏のボーイフレンド”の2曲。どちらも前作に収録の名曲“透明感”の流れを引き継ぐ、珠玉のキラキラ・エレポップ・チューンに仕上がっている。一方で“くるくるスピン大会”や“Crazy”といった曲では、〈右脳、右脳/若くして働きだして危険〉などまさに右脳を刺激するキラー・フレーズ満載のシュールなリリックが、聴き手をトワイライトゾーンへと誘う。
「(歌詞を)歌っているときの感情は〈無〉ですね」(ローラーガール)。
「というか、考えながら歌うと気が狂いそうになるので(笑)」(尾苗)。
「コンセプトがあらかじめ全部カッチリと決まってなくてもいいと思っていて。〈曲名と中身が全然違うじゃん〉とか、〈あ、でもヘンな言葉がいっぱいあっておもしろいな〉とか、そういうバランスの悪い感じが好きなんです」(ほうのき)。
「複数の異なるコンセプトがリンクし合っている感じ。やりたいようにやったら自然に繋がっていたというか」(シノザキ)。
音は甘くてポップ、耳にスッと馴染む親しみやすさを持っているのに、歌詞は異次元──そんな奇妙に歪んだバランス感覚から生まれた、気まぐれでどこか官能性に満ちた14のポップソングたち。寝室にいながらにして世界旅行に旅立とうとする現代ならではの自由な感性が、謎めいた砂漠の蜃気楼の先で辿り着いたのは、果たしてどんな桃源郷なのか? この、行き先不明の〈どこでもドア〉の扉を開けてみれば、おのずと答えがわかるかもしれない。
▼『アラビアの禁断の多数決』に参加したアーティスト関連の作品。
左から、片想いの2013年作『片想インダハウス』(KAKUBARHYTHM)、Nabowaの2012年作『Sen』(AWDR/LR2)
▼禁断の多数決の2012年作『はじめにアイがあった』(AWDR/LR2)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年11月20日 17:59
更新: 2013年11月20日 17:59
ソース: bounce 361号(2013年11月25日発行)
インタヴュー・文/佐藤一道