Ovall 『DAWN』
日が沈むのは夜明けの前ぶれ。始まりと終わりのサイクルから導き出された『DAWN』は、終わりのない日常に新しい日の到来を刻み込む。活動休止直前のラスト・メッセージ!!!
〈Ovallを支えてくれた皆様、本当にありがとうございます。Ovallというローソクに火を灯した時はこんなに多くの人たちに出逢えるとは想像もしていませんでした。いまや炎は聖火のように大きく広がり、共有しています。これからOvallはお休みしますが、種火は心の中に。Unity-La Flamme〉(Shingo Suzukiのメッセージより)。
アルバム収録曲をリリース前に生でお披露目するという全国ツアーも話題となるなか、突然の活動休止を発表したOvall。とにかくお騒がせな3人だ。しかし彼らの話を訊くうちに、すべてのストーリーがポジティヴで合点のいくものだと思えた。
デビュー前に出演した〈朝霧JAM〉が話題となってアルバムが大ヒット。並行して全国のフェスに引っ張りだこになる一方、メンバーは個々でも活動を展開してきた。七尾旅人やKOJOE、そして来年リリースを控える新人ASKAHのプロデュースやパリコレ出展ブランドの音楽なども手掛けるShingo Suzuki(ベース)。ソロ名義での活動に加えてU-zhaan×mabanuaやgreen butterのプロジェクトを推進し、CHARA、BENI、川本真琴らのプロデュース、来年放送されるTVアニメ「スペース☆ダンディ」への楽曲提供も行うmabanua(ドラムス)。そして数々のCMや福原美穂& origami players(Shingo Suzuki、mabanua、SWING-O a.k.a. 45)らのサポートに加え、自身のソロ・プロジェクト=vusikではジョヴァンカを迎えたアルバムを制作中だという関口シンゴ(ギター)——とにかく多忙な日々のなか、メンバーの集まれない状況が続いていたそうだ。
「ファンの皆さんに加え、アーティストや音楽関係者にも注目していただき、プロデューサーとして音楽をクリエイトできるのは本当に嬉しいこと。だけどバンドも大事。どちらも両立できたらいいのですが、物理的に難しい。キャパオーバーのなかで選択を迫られることになりました」(Shingo Suzuki)。
バンド活動と多様なプロデュース業を両立することの難しさを痛感した3人は何度も話し合い、決断した。
「中途半端に取り組むのはいち音楽家としては許されない。いまは個々の音楽を追求し、違う景色を見て、その経験をいつかまた持ち寄ろう、ということです」(mabanua)。
苦渋の決断のようにも思えるが、本人たちはむしろ前向きだ。
「たくさんの人が注目し、惜しんでくれるのは本当に嬉しい。日々演奏することに変わりはないけど、バンドとしては大切な区切り。今後を見守ってもらえたらと」(関口シンゴ)。
そんな思いが凝縮されたニュー・アルバム『DAWN』。いままで海外アーティストばかりをフィーチャーしてきた彼らだが、今回はさかいゆうや青葉市子をゲストに迎えている。
「ゆう君は昔からの仲間。この曲は彼以外ありえないと思った。青葉市子ちゃんは七尾旅人君からの紹介で、詞の世界観が完璧にはまった」(Shingo)。
ネット上では制作現場の模様を公開、セッションしながら曲が出来ていく様子を観ることができる。ライヴ・バンドとして動きながらネットを活用していくバランスも、現状のシーンにフィットしているのかもしれない。
「今回のアルバムはライヴ感たっぷり。それを体感してほしかったから、リリース前に全国を回って、土地土地の空気を震わせてきました。お客さんに映像の撮影やSNS公開を自由にしたのも、ネットでもライヴ感を共有できればと思ったからです」(Shingo)。
活動休止前のアルバム名が〈DAWN=夜明け〉とは何とも皮肉だが、そのあたりも彼ららしい。今後の活動がより大きくなっていくことを窺わせる、自信に満ち溢れた快作だ。Ovallという炎は3人の胸に秘められている。
▼『DAWN』に参加したアーティストの作品。
左から、さかいゆうのシングル“薔薇とローズ”(ARIOLA JAPAN)、青葉市子の2013年作『0』(スピードスター)
▼関連盤を紹介。
左から、Ovallの2010年作『DON'T CARE WHO KNOWS THAT』、同2011年作『Heart Fever』(共にorigami)、GAGLE×Ovallの2012年作『GAGLE×Ovall』(ビクター)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年12月25日 00:30
更新: 2013年12月25日 00:30
ソース: bounce 361号(2013年11月25日発行)
インタヴュー・文/脇前 陽