Arisa Safu 『Chasing The American Dream』
ギターを抱いてこちらを見つめるうら若き女性シンガー・ソングライターが鳴らすのは、タフでブルージーでヴァイタリティーに溢れたあの頃のアメリカン・ロック!
生々しくってザラッとした感触のブルース・ロックが鼓膜を心地良く刺激するアルバム『Chasing The American Dream』。アメリカン・ロックの醍醐味が凝縮された本作を、日本生まれのうら若き女子が作り上げたなんてにわかに信じ難い。いったいどんな環境ならこのような子が育つのか?と不思議に思っていたが、出自を聞いて納得。父親は横浜にあるロックの聖地というべきライヴハウス、THUMBS UPの経営者だった。幼い頃から受けた英才教育が大きく実ったこのシンガー・ソングライター、Arisa Safuの初作は、文句なしにカッコ良い作品だ。
開口一番、「1967年から74年のアメリカ西海岸ロックが好きで」と言い放った彼女。ではまず、当時のロックの魅力を話してもらおう。
「80年代に近付くにつれてテクノロジーが進歩し、多分にエフェクターをかけたり、大幅に修正を施すようなレコーディング・スタイルが定着していきますよね。そうやって作られた音楽にも明確な主張はあるけど、私はその前の時代の生っぽくて骨っぽい、いかにも人間が奏でている感じの音楽が好きなんです。ひと声発しただけでそれが誰かすぐにわかってしまうような、正直な音楽が。当時のミュージシャンのレヴェルはすごく高くて、どの演奏からも人生のいろんな経験が滲み出ている。〈これが表現したい! 伝えたい!〉って考えを最初からしっかり持っている彼らの音楽の強さに惹かれるんです」。
この発言の内容は、ヴィンテージ楽器を用いてアナログ録音を敢行した本作で彼女がめざした音楽作りにまんま当てはまる。アーシーなスライド・ギターが疾風の如く駆け抜ける“Runaway Train”や、ZZトップばりに豪快なブギーのリズムを奏でる“Bandaid on a Broken Heart”、それに、ハードにキメたガンズ・アンド・ローゼズのカヴァー“Sweet Child O' Mine”などを聴けば、彼女のタフでヴァイタリティーに溢れた性格が見えてくるよう。ロック・シンガーとして強力な武器となるハスキー・ヴォイスはバラードでも冴え渡り、なかでもリトル・フィート“Willin'”のカヴァーで醸し出されるメロウネスが絶品。とことんエモーショナルでどこまでも乾いたサウンドからは親密な雰囲気が伝わってきて、メンバーと膝を突き合わせながらレコーディングしたことがよくわかる。
ところで、取材中は常に前のめり姿勢だった彼女。好きなミュージシャンの話になるとよりいっそう情熱的になっていって……。
「理想の人はボニー・レイット!! どんなにすごい男性ミュージシャンに囲まれても、必ずいちばんカッコ良い! 歌声とスライド・ギターも最高だし、あの余裕っぷりに憧れますね。ソングライターで好きなのはジャクソン・ブラウン。歌詞も素晴らしいけど、心をグッと掴まれるあのメロディーがもう……」。
猛烈な勢いで自身のヒーローについて語る彼女を眺めつつ、インタヴューの最初に耳にした「私のアルバムが、同世代の人がアメリカン・ロックを聴く入り口になればいいなと思う。心から〈カッコ良いでしょ?〉と言える音楽をやっているので」って発言を反芻していた。〈アメリカン・ドリームを追いかけて〉と題された本作には、そんな彼女の迷いのない憧れから生まれた、無敵のロックが詰まっている。ぜひ確認してほしい。
▼文中に登場したアーティストの作品。
左から、ガンズ・アンド・ローゼズの87年作『Appetite For Destruction』(Geffen)、リトル・フィートの71年作『Little Feat』、ボニー・レイットの71年作『Bonnie Raitt』(共にWarner Bros.)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2014年01月23日 16:20
更新: 2014年01月23日 16:20
ソース: bounce 362号(2013年12月25日発行)
インタヴュー・文/桑原シロー