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インタビュー

伊藤ゴロー



音楽の余韻〜すべての終わりに

伊藤ゴロー_A

ジャンルを越境しつつ、日本とブラジルの間に美しい橋を架けたような逸品『GLASHAUS』。伊藤ゴローの『POSTLUDIUM』は、この前作に続くインスト・アルバムの第2弾である。東京とリオデジャネイロで、ブラジルのミュージシャンの協力を得て録音された前作に対して、今回は東京で、日本在住のミュージシャンと共にじっくり腰を据えて制作された。

「前作の時は、ブラジルのミュージシャンと録音するということを念頭に置きながら曲を作りました。でも、今回は楽器編成のことすら考えずに、手探りで曲を作った。前作と違ったものを作りたかったから。それと前作の時はあらかじめ譜面を書いて録音に臨んだんですけど、今回はスタジオでミュージシャンと一緒に演奏しながら曲の形に仕上げたものがほとんどで、中には即興演奏をそのまま録音したトラックもあります」

『POSTLUDIUM』は、「後奏曲」という意味。なぜこのタイトルを付けたのかと尋ねたら、ミュージシャンらしい答えが返ってきた。

「前奏曲はたくさんあるけど、後奏曲は少ない。ただし、ウクライナの作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフは後奏曲を何曲か作っていて、僕は彼の作品が好きなので、このタイトルにしよう、と。あと“postludium”という言葉の響きが好きだから。僕にとって言葉は、意味より響きの方が重要で、響きが良くないと、その言葉を好きになれない。逆に言うと、響きの良い言葉は必ず意味も良いと思い込んでます(笑)」

編成は最大で、ギター、ピアノ、チェロ、クラリネット、ドラムスなどの7人編成。どの曲も室内楽的な小編成で、しかも必要最小限の音だけで奏でられている。それだけに余白が多く、伊藤ゴロー流の音世界は、ますます純化かつ深化している。武満徹の著書の題名を借りるなら、“音、沈黙と測りあえるほどに”。

「僕の曲作りは、粘土のひと固まりから余計なものを削いでいくといった感じ。一時期は音を積み重ねたテンション・コードを用いて曲を作ることに凝っていたけど、最近は3和音か4和音で、いかに新鮮なハーモニーを生み出すか。このことを密かな楽しみに曲を作ってます。シンプルで美しい曲を作るのは難しいけど、やりがいがあります。もし許されるなら、ワン・フレーズの音楽を作るかもしれない(笑)」

『POSTLUDIUM』には、4つの小品「Opuscule」が適所に配されており、アルバムとしてのトータル性に重きが置かれた作りになっている。しかも今回も詩人の平出隆が装丁を手掛けているだけに、視覚と手触りでも味わうことできる。つまりフィジカルCDならではの魅力にあふれた“書物”のような“アルバム”だ。



LIVE INFORMATION


『原田知世「on-doc.(オンドク)」』
○12/20(金)福岡 日本福音ルーテル博多教会
○22(日)大分 由布院 空想の森アルテジオ
○24(火)長崎県美術館 エントランスロビー

『細野晴臣×坂本龍一』
○12/21(土)六本木 EX THEATRE ゲスト出演

『Shibuya Hikarie Xmas 2013 ~Wonderland~』
○12/8(日)渋谷 ヒカリエ11F
演奏:伊藤ゴロー(g)澤渡英一(P)伊藤彩(vn)
http://itogoro.jp/



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年12月16日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview&text:渡辺亨