インタビュー

河村尚子



《詩と歌》をテーマにした河村尚子の意欲作

河村尚子_A

つい先ごろ、イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルの定期公演にデビューして大成功を収め、来日公演でも同コンビと共演を行った河村尚子。デビュー録音以来着実な進化を遂げ、世界各地で演奏している彼女がサード・アルバムに選んだのは、こよなく愛す作曲家、ショパンのバラード全曲。第3番、第4番は以前から弾いていたが、今回第1番と第2番が加わることにより、全体を俯瞰することができたという。

「第1番の冒頭の部分はミケランジェロのダヴィデ像を連想させるような大きさを感じます。第2番はちょっと苦手で敬遠していたのですが、ショパンが触発されたミツキェヴィチの詩を読み、曲に託したものが理解できるようになりました。第3番はデビューCDでも収録し、その後弾き込んでいくうちに解釈にも変化が現れました。それを聴きとっていただければと思います。第4番はとても愛されている曲で変奏曲の手法がとられ、複雑で熟成した作品だと思います」

すでに3度目の録音になるわけだが、今回はメロディと伴奏のバランス、強弱の幅、自分自身出したい音が録られているかどうかなど、さまざまな点に留意し、録音スタッフとともにそのつど話し合いをもち、よりよい結果が得られるよう細心の注意を払っていった。

「常に自己批判できる態勢が整っていないとダメですね。マイクは高性能ですし、どんな弱音でも拾ってしまう。コンサートとはまったく異なる意識をもって臨まないとならないし、極端なまでに強弱やコントラストをつけることをしないと録音はうまくいきませんね」

河村尚子はポーランドの先生、マウゴルジャータ・バートル・シュライバーに師事していたころ、ショパンの精神性や作品に潜むさまざまな感情を教えられた。やがてハノーファー音楽大学でウラディーミル・クライネフに師事し、より深くショパンを探求していくようになる。そのすべてが彼女の財産となっている。

「バラードは4曲ともまったく異なる内容をもっていますが、舞踊の要素と拍子に共通項があります。先生たちから得た教えを自分のなかで練り、イメージを膨らませてきました。それからミツキェヴィチの詩という共通項でショパンの歌曲のリスト編曲版を加え、シューベルトの美しい歌曲も入れ、ワーグナー・イヤーに因んで《トリスタンとイゾルデ》で幕を閉じました」

その選曲により、このアルバムは一夜のリサイタルをほうふつとさせ、終わると余韻がいつまでも心に残り、さまざまな「歌」が脳裏に浮かんでくる。

「まさに、《詩と歌》をテーマにしています。私は歌が大好きで、ピアノでもそれを表現したいのです」

全編に自信がみなぎり、豊かな歌心が息づいている。



LIVE INFORMATION


●2014/3/28(金)東京・読売新ホール
●30(日)相模原・相模原市民会館
●4/5(土)西宮・兵庫県芸術文化センター
●6(日)倉敷・大原美術館
●7(水)あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
●8(火)東京・東京文化会館
http://www.japanarts.co.jp/concert/



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年12月17日 10:00

intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)