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インタビュー

中島ノブユキ



人の気持ちと出会ったところで音楽をして

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作曲にピアノに活躍の場を広げる中島ノブユキ。ジェーン・バーキンの"via Japan"ツアーでは、ドラム、ヴァイオリン、トランペット、ピアノという大震災直後に集った音楽家の偶発的な編成で簡潔なアンサンブルを聴かせたが、NHK大河ドラマ『八重の桜』の音楽はオーケストラを用いる新たな挑戦となった。「ひとりの女性の人生を一年をかけて描くうえで大編成が必要とされましたが、楽曲数も多いですし、編曲上のトライや冒険も少し忍ばせつつ創ったつもりです」。

編成が大きくなっても、劇中人物や視聴者の心理が動く余地がある。「どちらかというと室内楽的な編成で、演奏者がみえて、声があって顔があって、全体としてひとつにまとまるのが好きなんですね。差し替えが不能なサウンドというか。オーケストラという匿名性の高い編成でも、それぞれの楽曲でフィーチャーする楽器のソロは、すべて同じ人にお願いしました」。オーボエの庄司知史、バンドネオンの北村聡、ギターの鈴木大介、ヴァイオリンの金子飛鳥らが多忙を縫って参加した。「核になるパートには自分の過去と、いままでいっしょに音を創ってきたという空気感を注ぎたかった。この人が弾くからこの音になる、こういうフレージングと歌になるというのが、音楽にとって重要だと思う。そこが最後の砦なんじゃないかな」。

昨夏からこの秋まで3回の録音セッションを重ねた『八重の桜』の仕事もまもなく完結する。11月に第3弾をリリース、新年には物語の流れを改めて一望するコンプリート盤が発表される。「場面や状況を指定した短い言葉に触発されて書くことに、奥行きの広い世界を感じて、すごく自由に作曲ができましたね。『八重の桜』に関しては、メロディーでドラマを創っていきたいというか、メロディーに溢れかえった音楽にしたいなと勝手に自分のなかで決めて、その路線で創った曲が多いんですね。それがなにか独特の効果を生んだらいいなとは思っていて」。八重の夫、新島襄が創設した学園が、中高時代に通った母校という不思議な縁もあった。「夏の録音でしたが、母校のパイプオルガンを弾いたのはちょっとうれしかったなあ。情緒的なことではなくて、ほんとうに音がよかったので」。

「人の気持ちと出会ったところで音楽をして、出かけていって、帰ってくる、そういうのが好きなんですね」と、中島ノブユキは静かに言った。では、これからどこへ行きますか? 「出会う人次第じゃないですか(笑)。いままでもそうでしたから。自分の意志でやってきたという気持ちはあんまりないです。この人と会えたから、こういうふうに自分はなれた、そういうことのくり返しですから」。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年12月23日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview&text:青澤隆明