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インタビュー

Irvine Welsh&Jon S.Baird



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『トレインスポッティング』の原作者が描く史上最悪の刑事の破天荒な物語が映画化
そこに浮かび上がるのは壮絶な“中年の危機”

刑事でありながらドラッグにまみれ、売春行為で補導した少女にわいせつ行為を働き、同僚の妻と不倫をし、昇進のための裏工作に余念がない。そんな最低にして強烈な男=ブルース・ロバートソンを主人公にした小説『フィルス』が映画化された。原作者は『トレインスポッティング』で注目を集めたアーヴィン・ウェルシュ。監督はブルースやウェルシュと同じく、生粋のスコットランド人のジョン・S・ベアードだ。ウェルシュは自分が生み出したイカれた刑事について、こんな風に説明してくれた。

「ある意味、ブルースは典型的な中年男だと思うんだ。ある程度までのぼり調子だったのに、家庭や職場に問題が起きて混乱している。それに正しく対応できずに、間違ったやり方で対処しようとしているんだ。そういうことって、多くの人が体験しているんじゃないかな。自分が若くないことに気づき、自分が所属している組織や文化が変わっていくことに戸惑いを覚える。さらに若者がどんどんやってきて、彼らに自分のポジションを奪われることに不安を感じたりする。そういう“中年の危機”に見舞われた男の物語なんだ」(アーヴィン・ウェルシュ)

確かにブルースが抱え込んだ厄介な問題は、程度の差はあれど多くの人が経験すること。でも、ブルースみたいに暴走するワケにはいかない。だからこそ、思う存分暴れ回るブルースに、どこか憎めないものを感じてしまうのかもしれない。

「ブルースがおかしくなった原因は大きな喪失を体験したからだ。ブルースはその喪失を乗り越えようとして、やり方を間違い深みにはまっていく。そうした喪失感や失敗は、誰もが経験したことがあるはずだ。人間関係が破綻したり、大切なものを失ったりしてね。だから、彼にどこか共感できるところがあるんじゃないかな」(アーヴィン・ウェルシュ)。そして、監督はさらにこう付け加える。「それにブルースは自分の感情に正直なんだ。〈真実とは議論できない〉ということわざがあるけれど、ブルースの正直さに観客は惹かれるんじゃないかな」。

そんな手強くも魅力的な主人公を演じたのは、『つぐない』『トランス』のジェームズ・マカヴォイ。まだ30代の男前俳優が40代のダメ男を演じるにあたって、ウェルシュは戸惑いがあったらしい。

「初めてジェームズに会った時は10代の男の子に見えたんだ(笑)。アル中の中年男の役をやるには若すぎるんじゃないかと思った。でも、30分くらいその場を離れて戻ってくると、知らない男がそこにいた。よく見るとジェームズだったんだ。彼はすっかりブルースになりきっていて、言葉遣いや動作、表情がまったく変わっていて実際の年齢よりかなり歳上に見えた。素晴らしい役者はそういうことができるんだよ。これで衣装を着て演技をしたらとんでもないことになるんじゃないかと思って興奮したよ。撮影に入ったら、ジェームスは毎日ウィスキーのボトルを半分空けて酔っぱらいの顔を作っていた。(本の表紙を指して)この表情なんて俺がイメージしたブルースそのものさ」(A・ウェルシュ)

「僕も最初にジェームスと会った時は若い気がした。でも、彼と話をしているうちに、彼がブルースのような精神疾患を患った人の複雑さを理解していることがよくわかった。僕もそうなんだけど、彼も子供の頃から精神疾患を患った人と一緒に育ったらしくてね。それで彼なら大丈夫だと思ったんだ」(ジョン・S・ベアード)

ウェルシュにとって本作は、もっとも映画化したい作品だったらしいが、その彼が太鼓判を押すジェイムズの演技は映画の大きな見どころだ。また、映画を見て原作を手に取った人を驚かすのは、映画には登場しなかった“サナダムシ”の存在だろう。ウェルシュはブルースの分裂した自我を、サナダムシを通じて実験的な表現で描いてみせた。

「寄生虫と人間の関係にずっと興味を持っていたんだ。自分の中に別の生き物がいるなんてSFみたいだろ? もし、そいつがアイデンティティを持っていて、宿主に対して批判的な意見を言ったらどうなるだろうと思ったんだ。映画化する際、ジョンは映画的で賢い脚色をしてくれた。サナダムシに変わってドクター・ローシーという精神科医を登場させたんだ。CGに無駄な金を使うより、精神科医を登場させたほうが経済的で効果的だと思うね」

ちなみにウェルシュが映画で好きなシーンは「ブルースが妻を撮影したビデオを見てオナニーをしながら、友達の奥さんにイヤらしいイタズラ電話をかけるところ」。ウェルシュいわく「そこには怒り、哀しみ、痛み、あらゆる感情が詰まっている」からだとか。そのコメントは、混沌としたパワーを放つ原作にもいえることだ。最後にウェルシュがブルースと同じ40代だった頃のことを振り返ってもらった。果たして、ウェルシュに中年の危機はあったのか?

「長い間連れ添った女房と別れたんだ。それで〈独身に戻ったぞ!〉って遊びまくったけど、結局〈そんな歳でもないな〉と思ってすぐに再婚した(笑)。最後の冒険をするのが40代なのかもね」

最後の冒険で派手に遭難した男、それがブルースなのかもしれない。



FILM INFORMATION


Filth
©2013 Lithium Picture Limited.

『フィルス』
監督・脚本:
ジョン・S・ベアード
原作:アーヴィン・ウェルシュ「FILTH フィルス」渡辺佐智江・訳(パルコ出版)
音楽:クリント・マンセル
出演:ジェームズ・マカヴォイ/ジェイミー・ベル/イモージェン・プーツ
配給:アップリンク/パルコ (2013年 イギリス 97分 R18+)
◎渋谷シネマライズにて絶賛公開中!ほか全国順次ロードショー
www.uplink.co.jp/filth/



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年12月24日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview & text :村尾泰郎