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インタビュー

Paavo Järvi



参謀も集えば兵士も集う 彼こそは指揮界の天下人

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まさに情報化社会のマエストロ。演奏コンセプトは入念なリサーチと譜面の読みに支えられ、それを音にする媒体としてのオーケストラを完璧に統率し、斬新にして説得力の高い解釈を世に発信し続ける。室内管弦楽団の機動力の高さと響きの透明感をフルに生かしたシューマンも、シリーズの最終巻に至った。コンチェルトシュトゥックにはベルリン・フィルの首席奏者シュテファン・ドールを1番ホルンに招くなど、話題性も豊富である。

「ここでは彼が残したオーケストラ作品でも、非常に特徴的なものを組み合わせてみたいと思いました。特に《序曲、スケルツォとフィナーレ》は興味深い存在。内容的には“ミニ・シンフォニー”と呼べるし、単なる習作の域にもとどまっていない。スケルツォ楽章は典型的なシューマンです。リズム・パターンの執拗な反復がもたらす律動性と、それにもかかわらず移り気で安定しない気分。《クライスレリアーナ》のようなピアノ曲にも通じますね!」

この作曲家の「偏執狂的な面や躁鬱気質を掘り下げていく」視点の一貫性も、交響曲第4番で大いにモノを言う。実に鮮やかな明と暗の対比感。それが流れるようなテンポ設定で繰り広げられていく。

「第1楽章の序奏でも大きなパルスのうねりを維持することが重要。1拍ごとを重く刻まず……(歌ってみせる)。終楽章の推進力を保つ点でも同じです。ある種のワーグナー解釈から影響を受けて因習化して肥大化を遂げた“ヘビー”な音楽作りというものが、この手のレパートリーにはつきまとう。余分な衣を着せられてしまったシューマンを、私はあるがままの姿に戻したい。ブルックナーも然りですが」

フランクフルト放送響とのブルックナー・シリーズも着々と進行中だ。最新作の交響曲第4番では、普通に用いられる1878/80年稿に対して、いわゆる改訂版に基づく1888年稿のスコア(協会全集版も刊行済)も部分的に採用。それは彼が「自分なりに最良の形を追求した」結果であり、終楽章にシンバルの一撃を追加したというレベルの話ではない。

「ブルックナーが改訂を重ねた作品に関して、客観的に“これが絶対”というヴァージョンは成立しえないのではないかと思います。しかしディテールは、あくまでディテールでしかありません。このシンフォニーで特に重視したのは、ドイツ語でいう“フリーセント”な流動感。第1楽章でもブルックナーは“動的に”と記している。それを音楽の本質と結びつける過程でテンポやフレージングが決定していくのです。ハイドンにまで起源をたどれるロジカルな交響曲作法を、私はブルックナーに見出したい。音楽を宗教的儀式に作り替えるのではなく(笑)」

こうした観点を個別の楽曲に反映させる上でも、つまりレパートリーの“振り分け”を行なう点でも、彼がもっか手中に収めているオーケストラは本当に羨ましいほどの顔ぶれだ。2010年から首席指揮者をつとめるパリ管弦楽団と去る11月に果たした来日公演では、ドビュッシーやラヴェルやサン=サーンスを軸にすえたプログラムを披露。ヴィルトゥオーソ・オーケストラと辣腕コンダクターの相互作用による圧倒的な成果が聴衆の度肝を抜いた。CDの企画はまだ練っている段階のようだが、映像で一足先に彼らの美演を愛でることができる。《春の祭典》と《火の鳥》と《牧神の午後への前奏曲》という、ディアギレフのバレエ・リュスゆかりの作品集。パリの舞台にひときわ映えるプログラムだ。

ヤルヴィの次なるターゲット? それはドイツ・カンマー・フィルと組んだブラームス。2014年の12月には大掛かりな来日公演が予定されている。

「普通の認識と異なるかもしれませんが、ブラームスのオーケストラ書法は本当に独創的で凝りまくっている! 金管楽器の用法ひとつとっても、バロック以前にまでさかのぼる伝統的な背景を踏まえながら、ロマンティックな音楽の中へ巧みに組み込んでいる。彼の譜面は確かに“マ・ノン・トロッポ”という発想標語をはじめとして、抑制された表現を志向しているように見えます。しかしそれは内に秘めた熱っぽさの裏返しではありませんか?」

やはり新鮮にして(ときに過激なまで!)啓示に富む作曲家像を描き出してくれそうなパーヴォ。既にブラームス学者(ヘンレ版の交響曲編纂者)ロバート・パスコールを招いたワークショップもオーケストラを交えて開催し、入念な準備を積んでいる由。優れた参謀も集い、優秀な兵士としての楽員も集う、彼こそはまさに指揮界の天下人という感じですね。



LIVE INFORMATION


パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
『ブラームス・シンフォニック・クロノロジー』
○2014/12/10(水)19:00開演
 ピアノ協奏曲第1番二短調op.15/交響曲第1番ハ短調op.68
○2014/12/11(木)19:00開演
 ハイドンの主題による変奏曲op.56a/ヴァイオリン協奏曲二長調op.77/
○2014/12/13(土)15:00開演
 大学祝典序曲op.80/交響曲第3番ヘ長調op.90/
 ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op.83
○2014/12/14(日)15:00開演
 悲劇的序曲op.81/ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調
 op.102/交響曲第4番ホ短調op.98

出演:ラルス・フォークト(P)クリスティアン・テツラフ(vn)ターニャ・テツラフ(vc)パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
http://www.operacity.jp/concert/



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2014年01月09日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview&text : 木幡一誠