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第10回 ─ キャプテン・ビーフハートがたどり着いた〈とんでもない世界〉

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/09/24   18:00
更新
2004/09/24   18:05
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間連載コラム連載。常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

2004年9月18日(土) CAPTAIN BEEFHEART & HIS MAGIC BAND『Safe As Milk』

  結構ロックン・ロールのことについて書いてきました。今週は、ぼくにとって理想のロック・アルバム、キャプテン・ビーフハート『Safe As Milk』です。最高にかっこいい。

 『Trout Mask Replica』など、ビーフハートの〈傑作〉とされるCDはぼくには難しすぎる。と思っていたのですが、家にあった『The Mirror Man Sessions』を久々に聞いたら無茶苦茶いい! 1曲目“Tarotplane”での、左右のスピーカーから別々に聴こえるエレクトリック・ギターのグルーヴがぼくを覚醒させます。19分もある長い曲ですが、そんな時間を忘れ去れさせるぐらい気持ちいいです。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“Sister Ray”やジョイ・ディヴィジョン、カン、日本ではゆらゆら帝国などが同様の世界にリスナーを導こうとしていましたが、これがベストなのでは?

 ぼくは、元マジック・バンドのギタリスト、ズート・ホーン・ロロことビル・ハークルロードが書いた本(タイトル忘れましたがとてもいい本です ※注)を読んでいて、「ビーフハートはピアノの黒鍵だけで作曲している」とか、そういった何と言うか、彼のダメぶりを知ってしまっていたので、途中で入ってくるビーフハートが吹くハーモニカかなんか分からない管楽器の音はピッチがずれているようにしか聴こえない。でも凄い音なんだよな。こんな凄い音はなかなかない。それは認める。

 彼の永遠のライヴァル、フランク・ザッパに対抗しようとしたからなのか知らないけど、こんなとんでもない世界に行ってしまったビーフハートがやっぱりぼくは好きだ。「このままじゃレコード契約が切られる」と、売れ線を目指した『The Spotlight Kid』、『Clear Spot』も好きです。これはNUMBER GIRLのコンサートに行ったら、客入れに使われていて好きになりました。この辺のビーフハートは良くないだろう……、と無視していたのですが、そういうのはダメですね。向井くんえらい。

  ズート・ホーンの本によると、みんな共同生活をしていて(当時のバンドではよくある)なにげにみんなビーフハートに洗脳されていたそうです。そういうぼくは、この本を読んでビーフハートの洗脳から解かれているんですけど、でもやっぱりキャプテン・ビーフハートは凄いです。『Safe As Milk』が一番ロックン・ロールしていて凄い。ガレージ・パンクの最高峰。この時期だとフランク・ザッパに勝っているなどと書こうと思いましたが、全部凄いかもしれません。『Trout Mask Replica』また買いにいこうと思います。これで何回目かな、4回目ぐらいかな。そろそろぼくも『Trout Mask Replica』理解できるのかな。理解出来たらうれしいな。

※注 『LUNAR NOTES』BILL HARKLEROAD with BILLY JAMES著