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第11回 ─ 発想の転換から新しい音楽を生み出したブライアン・イーノ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/09/30   00:00
更新
2004/09/30   15:44
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週はブライアン・イーノの初期傑作について。

2004年9月22日(水) BRIAN ENO 『Here Come The Warm Jets』

  最近ブライアン・イーノの初期作品(特に『Here Come The Warm Jets』と『Taking Tiger Mountain』)をよく聴いていたので、今週はアンビエント・ミュージックの生みの親、ブライアン・イーノのアルバムを紹介します。

 イーノがアンビエントという発想を得たのは、ケガをして入院している時のことらしいです。友達がお見舞いにレコードをもって来てくれた時、そこにあったステレオ・プレイヤーはアンプかスピーカーが壊れていて小さな音しか出ない。小さな音で音楽を聴きながら、イーノはエレベーターや空港の待ち合い室などで聴ける〈BGMとは違った発想の環境音楽〉というアイデアを得たのだそうです。

 イーノはこういう発想の転換みたいなのがうまい人です。テレビの画面をビデオ・カメラで映すと、その映像は延々とフィード・バックをおこし、同じ模様を2度と描かないのですが、そういうビデオ・インスタレーションなどもイーノはやってました。そのインスタレーションでは、イーノはテレビを縦置きにしていて、その感じがオシャレだなと思っていました。

 あとイーノは80年代に一世を風靡したキーボード、ヤマハDX7の素晴らしい使い手としても有名です。音色を作るのが難しいとされているDX7ひとつでどんな音でも作ってしまうそうです。さらにイーノは、今は〈ダサイ音〉と見下されているDX7のFM音源の評価に不満だそうで、その解決策としてDX音源を3台使い、その音源の完成度を100%、60%、30%と曖昧にずらしていくことで今のどんなアナログ・シンセよりも素晴らしいシンセサイザーになると提唱しています。シンセのことを知らないとよく分からないかもしれませんが、これも単純だけど「なるほどなぁ」と唸らされる話なのです。

  ……と、関係ない話が続きましたが、ロキシー・ミュージックでブライアン・フェリーと人気を2分していたイーノがそれを嫉んだブライアン・フェリーに追い出され(本当かな? ぼくはウソだと思う)作ったと言われるのが、今回紹介する『Here Come The Warm Jets』です。このソロ・アルバムにはぼくの理想とするポップ、エキサイティングなサウンド、イギリス人らしいメロディが一杯つまっています。イーノはピンク・フロイドにいたシド・パレットのポップ性が好きだったみたいで、そういう部分を受け継いだ所にぼくは何かひかれます。

 そして素晴らしいミュージシャン、とくにロバート・フリップ(イーノにブライアン・フェリーを紹介したのはこの人。ブライアン・フェリーはキング・クリムゾンに入りたくオーデェションを受けにきたそうだが、「君はキング・クリムゾンには向いていない〈向いてないだろう〉、でも君には才能があるから自分でバンドを作りなさい」とイーノを紹介した)、フィル・マンザネラ、クリス・スペディグというギタリストだけのプレイを今こうして確認するだけで楽しくなります。特に“Baby's On Fire”のロバート・フリップのギター、現存するギター・ソロで一番かっこいいとぼくは思ってます。本当にたまりません。

 ニュー・ウェイヴの頃、イーノのこの時期のアルバムの方がニュー・ウェイヴだと思っていました。今エレクトロ・クラッシュなどでニュー・ウェイヴが再評価されていますが、このアルバムも聞いてみてください。絶対びっくりします。