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第14回 ─ 『London Calling』25周年記念盤に秘められた、オリジナルにはない魔力

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/10/21   13:00
更新
2004/10/21   16:55
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、先頃リリースされたクラッシュ『London Calling』の25周年記念盤を紹介。

2004年10月19日(火) The Clash『London Calling (Legacy Edition)』

  ぼくの中でいつからクラッシュ・ブームが始まっているのだろう。ぼくがパンクス(日本のだけど)だった頃、ぼくにとってクラッシュはダサいバンドだった。ぼくは完全にセックス・ピストルズ派だった。似非パンクのぼくは「カオスの中から真実を見いだすのだ」と、どんよりした町でジョニー・ロットンを気取っていた。「何かになりたい」と思って大阪を抜け出し、ロンドンに行った頃にはぼくはパンクスじゃなく、カメラマンになろうと必死に頑張る男の子だった。そしてカメラマンになって日本に帰って来て、色んな日本のクラブでクラッシュの音楽に触れるたびにぼくはクラッシュにやられていった。

 今ではクラッシュは一番好きなバンドのひとつに数えられる。そして『London Calling』リリース25周年を記念して発売されたこのスペシャル・パッケージを迷わず買った。ファンの間では伝説化し、今回初めて世間に発表されたデモテープ『The Vanilla Tapes』、レコーディングやライヴの映像を収めた特典DVD、そういうおまけに胸躍らせながら家に帰った。正直な話、『The Vanilla Tapes』もDVDもたいしたことはなかった。『The Vanilla Tapes』にはクラッシュの素晴らしさの種明かしがが隠されているような気がしていたけど、そんなものあるわけはない。でも何百回と聞いているオリジナル・アルバムに、ぼくはとんでもないほどやられた。ギターを持って一緒に歌いながら、スリーコードとミック・ジョーンズらしい6度マイナーの泣きにやれている。

 昔はその良さがぜんぜん分からなかったのに、今では痛いほどよくわかる。これは素晴らしいロックン・ロール・アルバムなのだ。19曲捨て曲なし、ラジカセに入れてスタートさせれば永遠に踊っていられる。終わればまた1からかけ直す。どこが素晴らしいのか? 答えは分かっている。1枚目と2枚目のレコーディングがうまくいかず、アメリカ・ツアーで挫折を味わった彼らは、ロックン・ロールのルーツに戻ろうとするのだ。クラッシュはブルースで歌われるスタッガ・リー(無法者)になってすべての曲を作ったのだ。スタッガ・リーとは社会のはみ出しもの、ロックン・ロール、ブルースやソウルを作った男のことだ。しかし、はみ出した心で社会の真実をちゃんと見ている。このアルバムでクラッシュは、「何々を変えろ」とかそんなことを歌ってはいない。ただ彼らの目に写るもの、心に残るものを歌っているだけだ。その視点は、25年たっても何一つ古ぼけていない。いや、よけい新鮮さを増している。こんなロックン・ロール・アルバムは今はないからだ。もし今あるとしたらリバティーンズが一番近いのかもしれない。リバティーンズは、ピートとカールの二人の関係性を歌にしながら、それを普遍的なラブ・ソングへと見事に昇華している。

 ボブ・ディランの『Blonde On Blonde』、ビートルズの初期の作品たち、プレスリーのデビュー作。クラッシュは3枚目にしてこれらに並ぶ本当にとんでもないアルバムを作ってしまったのだ。普通の『London Calling』を持っている持っている人も、今すぐ買い替えるべきだ。音も断然いいような気がする(本当かな、ごめん聴き比べてない)。こんなことを思うのはぼくだけかもしれないがこの作品には魔力が潜んでいるような気がするんだ。ぼくは今やられている。