こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

第27回 ─ 現在のバンドになお強い影響を与えつづけているモノクローム・セットとフェルト

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/01/27   19:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、今なお強い影響力を持つ80年代のUKバンド、モノクローム・セットとフェルトについて。

2005年1月24日(月) The Monochrome Set、Felt

  先週はワイヤーとサブウェイ・セクトが好き、先々週はリヴァティーンズなどのコンピを紹介してジ・オンリー・ワンズが好きだと書いたので、その続きというのも何ですが、今週もぼく的胸キュン歌ものシリーズ、怒髪天風に言うならR&E(リズム&演歌)、モノクローム・セットとフェルトを紹介します。

 最近はイギリスのXfmをインターネットで毎日聴いています。本当はJ-WAVEを聴いて日本の音楽マーケットの動向を勉強した方が自分の為になると思うのですが、Xfmを聴いてしまいます。Xfmというのはイギリスのオルタナ系ラジオ局で、このラジオ局の頑張りが現在のイギリスのロック復活に一役買ったとぼくは思っています。Xfmでかかる若手のバンドを聴いていると、ぼくはフェルトとかモノクローム・セットを思い出します。ぼくの彼女がロンドンでオーディナリー・ボーイズの前座で観て気に入ったと言っていたカイザー・チーフスの新曲なんかを聴くと、今のバンドの音的な感触や精神性にモノクローム・セットやフェルトが持っていたクールな雰囲気をぼくは感じてしまうのです。「クールってどういうこと?」と問われるとうまく説明出来なくて困るのですが、オアシスなどのノーザン系とは違ったロンドン的ニヒルという感じですかね。モッズ、ソウル・ボーイとかパンク、そういうものに永遠に受け継がれているものです。

  リヴァティーンズのピーターがジ・オンリー・ワンズのピーター・ペレットを好きだったという嬉しいショックは、モノクローム・セットのビドやフェルトのローレンスのような、胸がせつなくなるヴォーカルを今のバンドの歌声が受け継いでいるという確信めいたものを感じます。イギリスのノーザン系はアイルランドと共通している部分があるとぼくは思っています。ベル&セバスチャンがフェルトを「一番クールなバンドだ」と言った理由はその辺にあるんじゃないでしょうか?

 ぼくがなんで昔のバンドに哀愁を感じているかというと、こういう人たちを聴き直して何かいいバンドを作れないかなぁ、とせこいことを思っているからです。でもぼくは詩が書けない(もちろん曲も書けないのですが)。モノクローム・セットの歌詞は全て卑猥な歌だったと思うのですが、そういうセンスはぼくにはない。リヴァティーンズのピーターのようにしゃべる言葉が全て詩になるような才能もない。ハッピー・マンデーズのショーンの歌詞も凄かった。こういう人たちが書いてきたような詩をぼくも書いてみたいと思うのですが、どうもアイデアが浮かばない。英語の歌詞ばっかり読んでいるからでしょうかね。

  日本だとベンジーさんや町田康さんの歌詞が素晴らしいと思うのですが、ぼくがやってもモノマネにしかならない。特にベンジーさんは天才ですね。JUDEも本当にいいバンドだと思います。ブランキー・ジェット・シティの解散の時に、今までベンジーさんの歌詞に登場した人物の名前が映画のキャストのように流れ、その時ベンジーさんの歌詞が全てブランキー・ジェット・シティという町のストーリーを歌っていたということに気づいて驚きました。その発想がミュージシャンが多く出演している近未来SF映画「爆裂都市」みたいだと思った。ぼくとベンジーさんは同い年で、「爆裂都市」にショックを受けている世代たから、ベンジーさんにブランキーの歌詞が「爆裂都市」に影響を受けているんじゃないかといつか聞きたいんだけど、恐れ多くってなかなか聞けない。

  ブランキー・ジェット・シティの由来はサザン・デス・カルトが好きだったからと語ってくれたことがある。ぼくが「レアなバンドが好きだったんですね」と言うと、「その頃の名古屋は進んどったからな」と答えてくれた。ぼくはベンジーさんの高い歌声はシアター・オブ・ヘイトのカーク・ブランドかなと思っていたのに、イアン・アシュベリーだとは思わなかった。当時はカルトよりもデス・カルトよりもサザン・デス・カルトの方がかっこよかったんだけど、今聴くと“Fatman”くらいしかいい曲がないのが不思議だ。

  解説をしておくと、シアター・オブ・ヘイトを抜けたビリー・ダフィーがイアン・アシュベリーと組み直したのがデス・カルト。ビリー・ダフィーにギターを教えたのがスミスのジョニー・マー。スミスのひな形となったバンドがモノクローム・セット。そして、ジョニー・マーの似非カントリーなリック奏法はモノクローム・セットからきている。イギリスのバンドってこうして辿っていくと繋がっているのがわかる。そういうのがかっこいい。マネしているんじゃなく、影響されている。ぼくもそういう輪の中に入りたいと20年以上試行錯誤しているけど、こうして原稿を書いたり、写真を撮ったするのが限界です。今週も何かグタグタになりました。来週は一つのバンドをしっかりと論じたいと思います。