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第30回 ─ 音楽とは何なのか? その本質を教えてくれるニッキー・シアーノのコンピレーション

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/02/17   17:00
更新
2005/02/17   19:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、3月の来日が決まっているニッキー・シアーノのコンピ盤を紹介!

2005年2月13日(日) V.A.『Nicky Siano's THE Gallery』

  ライヴ・レポートにも書いたのですが、ソニックマニアで見たゴールディー・ルッキン・チェインには感動しました。ハッパとか酒とかばっかりやってテレビの前でグダグダしているダメ人間の集まりという印象で観客を笑わせながらも、彼らのヒップホップに対する愛の深さを感じて涙しました。一言で言うとオヤジ・ダンサーズな感じなんですけどね。でもこの手法、日本でもありですよ。

 もう日本では「DJはレコードを回しているだけ」なんて思う人はいないんじゃないかと思います。ぼくがデリック・メイ、ジェフ・ミルズ、ダレン・エマーソンなどを日本に呼んで、クラブ・ヴィーナスというパーティーをリキッドルームでやっていたのが12年前。当時のタワーレコードにはまだダンス・フロアのコーナーがなく、「テクノってジュリアナですか?」と言われていました。10年で変わるもんですね。

  あの時ぼくが何をしたかったかというと、イギリスででかくなったレイヴ、ウェアハウス・パーティーを日本に持ち込みたかったのです。みんなでE食って世界革命を起こすことを夢見ていたのです。そんなこと日本で起ることはなく、イギリスでも起らなかった。でもイギリスではモッズが、ヒッピーが、パンクがそうだったように、もう少しでつかみそうになった。これがいいですよね、もう少しでつかみそう。イエローモンキーの名曲“So Young”みたいです。

  リキッドルームでイベントをやっていた時、ぼくがもう一つ夢見ていたのは、ぼくが子供の頃のディスコをもう一度作ることでした。今みんながカラオケに行くように、誰もがディスコに足を運んでいた時代があるのです。ぼくの音楽原体験はコンサートよりもディスコです。それはそれは楽しい所でした。でもディスコはいつの間にか、クラブという名の訳知り顔のやつが「ガラージはなんたら」とか言うような場所になっていました。そういうのを潰したかったんです。1000人くらいでバカ騒ぎしてそれでいいじゃないかと。そして見事にそうなりましたね。そうなると今度はそのバカそうに踊っている奴らを見ながら、「楽しかったらいいんか、クラブとディスコはそうちゃうやろ。もっと音楽に愛がないと」と思うようになったのです。オヤジですね。

  そんでこのCD『Nicky Siano's THE Gallery』です。今やライノを完全に超えた再発の名レーベル、ソウル・ジャズがまたやってくれました。73年から77年といえば、ディスコ創世記からディスコの終わりまで。その時代の本当のヒット曲をまとめたコンピレーションです。これがいい。ほんと騙されたと思って聴いてください。クラブが嫌いな人も一度聴いてみてください。今までこういうコンピはラリー・レヴァンの『Paradise Garage』、デヴィッド・マンキューソの『The Loft』など色々出ているんですけど、これは本当にいい。なぜいいかというとこのコンピをコンパイルしたニッキー・シアーノというDJがいいから。としかいえないんだけど。ニッキー・シアーノという人はハウス・ミュージックを作ったフランキー・ナックルズやラリー・レヴァン(この人がパラダイス・ガラージ専属DJ)の師匠にあたる人です。ダニー・クリヴィットというボディ・アンド・ソウルのDJが「デヴィッド・マンキューソ(この人がロフト主宰者兼DJ)はムードのストーリーだ。愛だね。ニッキー・シアーノにはヴォーカルのストーリーがあった」この意味がわかる人は少ないと思う。でもぼくはわかる、英語が完璧じゃないけど、このCDを聴きながら、ニッキー・シアーノが何を伝えたいかわかる。

  たぶんみんなも聴けばわかると思う。凄いよね、他人のレコードでそんなことが出来るなんて。でもそれがDJなのだ。というかそれが表現であり、音楽なのだと思う。ぼくたちはそういう風にして音楽を愛し、受け継いできたのだ。そんな当時の気持ちが何だったのか、今のクラブ・シーンの底辺に流れているスピリッツとは何なのか教えてくれるのがニッキー・シアーノです。

 なぜニューヨークのこうしたクラブにはモッズやレゲエのパーティーによくあるマッチョ的な雰囲気じゃなく愛があふれていたかというと、それはニューヨークのクラブがゲイ、しかもマイノリティという世界で一番差別されてしまう人たちが集まる場所だったからだと思う。この世界を一歩出ればそこは摩擦を生むだけの世界、そんなことはよくわかっている。でもこのクラブにいる時だけは誰もが愛し合い、助け合って生きよう。そんな彼らの熱い思いがぼくらノンケにも伝わってきます。モッズ、ノーザン・ソウル、アシッド・ハウスという流れは労働者階級の団結を感じさせます。ぼくはこっちも好きです。

  またこんな感動を味わいたいなと思っていたら、不思議なものでそう思っている人はぼくだけじゃないみたい。さっそく日本にニッキー・シアーノが来るのです。3月16日、19時からなので未成年の人も行けると思いますよ。クラブとは何なのか、音楽とは何なのかを知るためにちょっと覗きにいってみるのもいいかもしれません。初めてディスコに行った時の衝撃は、今でも覚えてます。ぼくはそれをもう一度味わいたくってこうしてずっと音楽の世界に関わっているのかもしれません。クラブ創世記のDJたちの映像を記録したDVD「Maestro」も発売されます。興味のある人はこちらも。

映画「マエストロ」のDVD化を記念して開催される、ニッキー・シアーノの来日DJイヴェントに3組6名様をご招待。応募はこちらから>>

-LEGENDARY MAESTRO DJ- With His Memorial Treasure Film and Photo Review,and Maestro DVD Sneak Preview Show!
DJ : NICKY SIANO
会場:恵比寿 LIQUIDROOM
日時:2005年3月16日水曜日
Door open at 19:00
Start at 20:00 with Nicky's film from 70's GALLERY in NEW YORK
Close at 24:00