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第35回 ─ 追悼、ベースウルフ 〈本物のロック〉をありがとう

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/04/14   15:00
更新
2005/04/14   17:40
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る日記コラム。今回は、先日急逝したギターウルフのベーシスト、ビリーさんへ宛てた追悼文です。

2005年4月10日(日)ギターウルフ

  ビリーさんが歌う“Summertime Blues”が好きだった。セイジさんがロックンロールに全てを捧げているのとは正反対に、ビリーさんはサングラスの向こうで飄々とした目をしていた。それは毎日が夏休みだと楽しんでいるかのようだった。そんな人が誰よりも先に狼惑星に帰ってしまったのは悲しい。

 ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンと並び、アメリカン・ミュージックの魂を現代に甦らせているヴァン・ダイク・パークスのライヴで何気なくベースを弾いている細野晴臣さんを見て「エーッ、日本人も普通にロック出来るんだ」と衝撃を受けた。昔から細野さんは本物だと思っていたけど、あのヴァン・ダイク・パークスとの共演は「本当に本物なんだ」と思わせるものがあり、うれしくなってしまった。

 日本人としてロックの世界に生きようと思ってウン十年、日本人も外国人に負けないくらいロック出来るとずっと思っているんだけど、ぼくの心の片隅にはピート・タウンゼントの「モノマネ人種の日本人にロックなんて出来ない」という言葉が染み付いていた。そんな言葉を細野さんのあのベースは粉砕してくれた。ピートの言葉はちょっと酷いけど、ロックとは何なのかということをうまく表している。ロックとは〈どれだけオリジナルになるか〉ということなんだ。

  それから何年かして、ぼくの大好きな本物のロックンロール・バンド、プッシー・ガロアの人が作ったバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンを観に行った。そこでぼくは、〈細野さんのベース〉よりもっと大きな衝撃を受けた。イギリスとかアメリカのロック史の伝説としてよく出てくるエピソード、〈前座のバンドがメインのバンドを食ってしまう〉という瞬間を本当に体験したのだ。それが日本のバンド、ギターウルフだった。しかもメインは外国のバンドという衝撃。体が震えた。

 「たまにメイン・バンドよりも前座に衝撃を受けることがある」って今書こうと思ったけど、でもよく考えたらメイン・バンドを見なくってもいいかなと思ったことなんか一度もなかった。グリーン・デイの前座を努めた時のハイ・スタンダードもこれに近かったけど、「グリーン・デイは見ないでいいかな」なんて思わなかった。ニルヴァーナやソニック・ユースの前座をした少年ナイフ、ボアダムスでも。

 当日はジョン・スペンサーもギターウルフに衝撃を受けたみたいだった。ステージ横で見ていた彼は、ステージ衣装を替えるために急いでホテルに帰ったそうだ。「服の問題じゃないですからーーー、残念! ギターウルフ切り!! って拙者古い、切腹」。もちろんジョン・スペンサーも服の問題じゃないってことは分かっていたはず。でも何とかしなくちゃと思ったんだ。いい話じゃないか。

  ギターウルフの衝撃とはパンク、ロックンロールのグルーヴを本当にやってしまったことだった。セイジさんみたいに「ロックとは録音レベルが赤に振り切れることだ」とか言う奴は多い。でもギターウルフは、本当に外国人のようなロックンロールをやってしまっていたのだ。ブルース・ブラザースの映画のように突然神から啓示があったのか、本当に狼惑星からきたのか、あるいはビリーさんやトオルさんと出会ったからそうなったのかは分からない。これからギターウルフがどうなるのかも分からない。でもきっとギターウルフはこれからも“Kick Out The Jams”をやり、セイジさんはロックンロールの秘密をぼくたちに教えてくれるのだろう。