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第44回 ─ パンク以降のシーンを作ってきたニュー・オーダーとエコバニの現在

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/08/18   14:00
更新
2005/08/18   15:52
ソース
『bounce』 267号(2005/7/25)
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今週は、SUMMER SONIC05で来日を果たしたエコバニの新譜をご紹介!

2005年8月12日(金) Echo & The Bunnymen『Siberia』

  「Fuck U2! This is New Order」。イタリアで行われたニュー・ウェイヴなフェス(オール・トゥモローズ・パーティーに似てる?)、トラフィック・フェスティバルで元ファクトリーの社長トニー・ウィルソンがニュー・オーダーを紹介したときにそう叫んだように、パンク以降ジョイ・ディヴィジョンとエコー&ザ・バニーメンは頂点だった。と言っても若い人は信じられないだろう……というか、どうでもいいことか。

 マンチェスターのジョイ・ディヴィジョン、リヴァプールのエコー&ザ・バニーメンがライヴァルのように競い合いながらも一緒にイベントをし、パンク以降を作ろうとしていたのだ。ジョイ・ディヴィジョンはもちろん観た事がないが、ニュー・オーダーとエコー&ザ・バニーメン、この2つのバンドはもうそれはそれは本当にかっこよかった。ぼくが初めてU2を観たのはエコー&ザ・バニーメンの前座だった。場所はライシアム、U2にとっては初のロンドン・ライヴだったと思う。NMEにボロカスに書かれたことで有名なギグで、ぼくもNMEと同じ印象をもった。ダサイと。デビュー・ライヴなのにもう旗も登場していたし、お客を一人上げてその子と踊るというU2の定番スタイルをやっていたと思う。そういう所がダサイと思った。

  でもぼくの評価は間違っていてエコバニはどんどん失速し、U2は20世紀を代表するロック・バンドになった。あの頃はエコー&ザ・バニーメンが20世紀を変えるロック・バンドになると思われていたのに。なんでだ。

 そして、ニュー・オーダーは見事に復活し、いまやフジロックの大トリを努めるまでになった。イアン・カーティスという亡霊がいて、“Blue Monday”という今世紀最大と言ってもいいヒット・シングルがあるからなのか。ヒット曲ならエコバニもあるんだけどなぁ。“The Cutter”じゃ弱いのか。

  エコー&ザ・バニーメンの新作『Siberia』は見事に〈ふっ切れ〉ている。というか再結成後のアルバムは全てふっ切れている。出だしの音が鳴った時には「ウワーッ!」と体が震えるんだけど、どうもその震えが続かない。でもそんなことを思っているのはぼくのようなオッサンだけだと思います。イアン・マカロックの声もバックの音も最高に素晴らしい。どんなイギリスの若手のバンドにも負けていない。まだ聴いたことない人はこのエコー&ザ・バニーメンにしか出せない素晴らしいサイケデリック・サウンドを聴いてみてください。こんな音があったのかと感動すること間違いなし。

 では、なぜもうひとつエコー&ザ・バニーメンが盛り上がらないかというと、うまくシングルを切れていないからだと思うのです。ニュー・オーダーは毎回アルバムに先駆けシングルを確実に切ってきてるんですよね。それでいろんな人にニュー・オーダーというバンドはこういう音だと分かり易く説明できたんじゃないでしょうか。アルバムごとにビッグ・ヒットはしなくても、確実にスマッシュ・ヒットを作ってきている。エコバニはそれをやってこなかった。ぼくはイアン・マカロックにはトラウマがあるんじゃないかと思います。“A Promise”、“Back Of Love”、“The Killing Moon”……と名曲をシングル・カットしてきたのにどれもチャート上位に食い込まなかったという失意が彼にはあるのではないでしょうか。あの当時ファンだったぼくは、これらのシングルは彼らの人気を考えれば確実にトップ3に入るだろうと思っていました。

 しかし現実は一番売れたのが“The Cutter”の8位ですよ。残念です。ニュー・オーダーもそんなにシングルがバカ売れしたわけではないんだけど、「これぞニュー・オーダー!」という曲を確実に残しているんですよね。ぼくはフジロックのトリでエコバニを観たい。サマソニでのエコバニがしょぼかっただけに。

  最後に関係ない話をひとつ。ランDMCが出ている「Graffiti Rock」という80年代のヒップホップ番組のDVDを観ていたら、ヴィンセント・ギャロがその番組に出ていて笑ってしまいました。スタジオに遊びにきているお客としてインタビューに応えているんだけど、名前がプリンス・ヴィンスだって。ジャン・ミッシェル・バスキアと一緒にノイズ・バンドをやっていたことは知っていたけど、お前B-BOYにまで関わろうとしていたのか! 一体何者なんだ。ついでにもうひとつ。そのDVDでシャノンが一曲歌っていたんだけど、彼女の“Give Me Tonight”って曲がニュー・オーダーの“Subculture”の元ネタだったことを知ってビックリ。なんで当時気づかなかったんだろう。