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第46回 ─ 今なお最先端を追い求めるローリング・ストーンズの凄さ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/09/15   01:00
更新
2005/09/15   17:12
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今週は、8年ぶりのオリジナル作をリリースしたローリング・ストーンズについて。

2005年9月7日(水) The Rolling Stones『A Bigger Bang』

  ギターの音が素晴らしい。60年代っぽい感じがいいとか、ストーンズっぽいギターがいいとか、そういうことじゃない。新進気鋭のロック・バンドに負けない05年の最新のロックン・ロール・ギター・サウンドがここにある。それだけでもこのローリング・ストーンズの8年振りのアルバムは偉大なんじゃないだろうか。

 ギターがロックン・ロールしている部分が素晴らしい。耳を傾けているだけで何かウキウキしてくる。まさにキース・リチャーズの名言「この頃の若い奴らはロックについて語りたがるけど、ロールすることを知らない」通りのギターだ。ロックン・ロールとは、青臭い若者が自分の内面を表現する為の自慰機械ではない。みんなを楽しく踊らせるための音楽だったのだ。

 タイトなチャーリー・ワッツのドラムもいい。チャーリーのシンバル、スネアを聴いているだけで元気になってくる。マシーンのような正確なビート、最高だ。バックビートが、後ノリが、などと人は色んなことをいうけど、バックビートって何だよ? ちょっとみんなよりズレて演奏するってことか? そんなのリズムが悪いだけじゃないか、いいドラムとは機械のように正確にリズムをキープすることだ。チャーリー・ワッツやリンゴ・スターなど昔のドラマーの人は本当に正確に同じリズムをキープする、ブレない。だからこそいいグルーヴが生まれるんじゃないだろうか。昔のレコードのピッチは、チューニングが適当だから甘いけど、リズムはこれでもかというくらいタイトで気持ちがいい。タイトなリズムにロールするギター。これがローリング・ストーンズなんじゃないかい。

  ドン・ウォズのプロデュースも最高だ。ウォズ(ノット・ウォズ)なんて元々は今でいうエレクトロ・クラッシュの元祖バンドだったのに、こんな大物と仕事しているんだから凄い。ミック・ジャガーのソロなどをプロデュースしていたビル・ラズウェルも元々はノー・ウェイヴというか、ニューヨーク・ファンクのマテリアルだ。80年代マテリアルやファンカポリタンが神様の時代があった。ミックはそういう天才を見つけるのがうまい。ブラック・グレープを聞いて「ダニー・セイバーをプロデューサーにしたい」とか50歳のオッサンが言うかい。彼らはいまだに素晴らしい音楽ファンなんだよ。そんなオッサンが日本にいるか? ロックン・ロールは、ブルースはこうじゃなくちゃいけないとかグタグタ居酒屋で叫ぶロックン・ロール・バカばっかりじゃないか。

 「ダスト・ブラザース、ダスト・ブラザースってミックがうるさいんだよ」ってキースにちょっとバカにされたりしていたけど、キースも凄い。ミックがダスト・ブラザースのことを口にして「何じゃそのゴミ箱のような名前のコメディアンは?」って言わないもん。ちゃんとダスト・ブラザースのことを知っているんだ。因みにぼくの一番最高のダンス・レコードはローリング・ストーンズの“Undercover Of The Night”のラテン・ラスカルズ・ミックスだ。これよりかっこいい12インチ・シングルはないだろう。ジュリアン・テンプルのPVもかっこ良かった。お前のお父ちゃんに「ラテン・ラスカルズ知っているかい」と聞いてみな「ダスト・ブラザーズよりかっこよかったヒップホップ・プロデューサーだろ」と答えるお父さんが何人いる? ローリング・ストーンズのメンバーはちゃんと知っているんだよ。それが海外の音楽ビジネスってやつだ。

  話を元に戻そう。ミックが新しいことをしようとしていないのが今回のアルバムで一番残念なことかもしれない。楽曲のパワーも落ちてきているかもしれない。でもこの辺はもっとちゃんと聴かなければならない。80年代に入ってストーンズにはいい曲がないとか言われるけど“One Hit”、“Harlem Shuffle ”、“Love Is Strong”、“You Got Me Rockin'”、“Sad Sad Sad”、“Rock And A Hard Place”などなどハードな曲だけでもこんだけいい曲があるんだよ。その辺は次のアルバムでミックに頑張ってもらいたいと思う。名ベスト『Forty Licks』での新曲“Stealing My Heart”がグランジっぽかったから、次のアルバムはグランジっぽくなるんじゃないかと心配したけど、いいアルバムでよかった。

  と色々ぐだぐた書いてすいません。最後にローリング・ストーンズの凄さについて書きます。彼らの凄さって、一言で言うとアンディ・ウォーホルに近いんじゃないかとぼくは思っている。今更ウォーホルなんだけど、ウォーホルの作品って日本風の家に飾っても、モダンな家に飾っても、ヨーロッパな古い家に飾ってもどこでも映える。それって凄くないか? ピカソもゴッホもそんなことはないだろう。でもストーンズはそうなんだよな。4畳半で聴こうが、パーク・ハイアットのスイートで聴こうが、ヘルス・エンジェルスの集まるバーで聴こうが、イビサのビーチで聴こうが、どこでもいいと思える。すごいことだよ。ストーンズのアルバムを1枚も持ってないという人も多い世の中になったと思うけど、一度聴いてみてください。最新盤で。