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第54回 ─ ベイビーシャンブルズ以降、最も注目されているUKバンドのこれから

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2006/01/26   14:00
更新
2006/01/26   18:03
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、UKロック界の最注目バンド、アークティック・モンキーズについて。

Arctic Monkeys『Whatever People Say I Am That's What I'm Not』

  いいロック・バンドが出てきたら追っかけをしようと思っているんだけど、いつもぼくはスタートでつまずいている。ストーン・ローゼズの時もオアシスの時も。リバティーンズも出はじめのころから撮っていたら、それはそれはいい写真集ができたはずだ。サマソニではじめてリバティーンズを観た時、「初期ビートルズみたいでかっこいい」と思ったけど、ピートにあんな才能があるとはわからず、「何でドラムが黒人やねんやろ、オレンジ・ジュースが好きなのかな」とか「2人でお揃いのエピフォンのギターがかっこいいな」というような、バンドの本質とは関係のない事しか頭に残らなかった。残念。

  ベイビーシャンブルズも今年のツアーは見に行こうかなと思っていたんだけど、大変なことになっているそうだ。ギターの人が公にはクビということになっているけど、実は売人から逃げ回っているという噂もあったりして。本当かよ。ロックだなぁ。日本の昔の芸人には、舞台を終えてギャラを貰ったあと、どうやって借金取りに捕まらずに楽屋から逃げるかという事に命をかけるような人がいたそうだけど、それに近い。

  映画監督のジュリアン・テンプルがセックス・ピストルズの初期の映像を収めていたのは、彼が友達に「スモール・フェイセズのようにロンドンを歌ったバンドは今いないのか」と聞いて紹介してもらったのが始まりだったのだそうだ。かっこいい話ですね。アークティック・モンキーズのことを聞いた時、そういうバンドかなと期待したんだけれど、アルバムの印象ではそういう感じではないみたい。でもベイビーシャンブルズ以降一番おもしろそうなバンドじゃないかと思っている。ラップではよく歌われているような歌詞を、ロックに乗せるセンスがなかなかかっこいい。

 彼らはいいたい事がたくさんありそうで、ぼくはそこにやられている。でもメッセージを伝えるとかじゃなく、日常の出来事を描写することによって共感を得ようとする感じ。日本からはこういう人たちは出てきにくい。〈真面目に生きよう!〉とかそんな当たり前のことをメッセージと呼ばれても困ってしまうし……。

  アークティック・モンキーズは、これからどう成長していくんだろう。オーディナリー・ボーイズのセカンドみたいに、右にいこうか、左に行こうかという悩みが出てきてもいいと思う。オアシスの『(What's The Story)Morning Glory? 』にもそういう所があったから売れたのだ。彼らのドラッグの混沌が、あの時代の多くの人が持っていた、〈人生の混沌〉とうまくマッチしたのだろう。アークティック・モンキーズがこれからどういう道を歩いて行くのだろうと考えながら、ぼくは一生懸命彼らの言葉に耳を傾けて聴いている。〈人が俺のことをどう思おうと俺は違う〉。素晴らしいタイトルじゃないですか。