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第22回 ─ 甦るスタックスの遺産(その1)

OTIS REDDING その死から40年……偉大なビッグ・Oの足跡

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2007/05/02   18:00
ソース
『bounce』 286号(2007/4/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

 26歳だったのだ。生きていれば66歳。そう、今年の12月が来れば、オーティス・レディングが亡くなって40年が経ったことになる。実際にレーベルメイトだったサム・ムーアが昨年復活劇を演じたように、まだ歌っていてもおかしくないだろう。……41年生まれのオーティスは、地元のジョージア州メイコンが生んだスター、リトル・リチャードを目標に歌いはじめ、やがてサム・クックに魅了されていく。18歳の時にジョニー・ジェンキンス&ザ・パイントッパーズなるグループにシンガー兼ピアニストとして参加し、レコード・デビューも経験。そのグループでスタックスのスタジオを使用した際、残り時間を使ってたまたま披露した自作バラードを歌う姿にスタックスのスタッフたちが仰天し、ソロでの契約に結び付いたという逸話が残されている。嘘みたいな話だが、そうじゃないことはオーティスの歌を聴けばわかる。そのバラード、“These Arms Of Mine”はヴォルトからのデビュー・シングルとなり、いまもオーティス史上最高の一曲と名高いものだ。その時点で彼は21歳。年齢を判断しづらいわれわれから見ればもちろんのこと、実際に周囲の人たちもオーティスを実年齢より上に見ていたというから、関係者たちが〈彼の周りだけ光が差しているようだった〉と語るように、歌だけじゃなくそのパーソナリティーにも独特の風格やカリスマ性があったのだろう。

 そんな彼の魅力は、やがて当然のように白人リスナーへも波及していき、渡英してTV番組「Ready Steady Go」に出演したり、〈モンタレー〉で観衆のドギモを抜いたりしている。オーティスの側も、ボブ・ディランやビートルズを聴いて新しい表現を模索していくようになる。そうやって生まれた曲こそ、彼がアコギを弾きながら作った“(Sittin' On)The Dock Of The Bay”だった。亡くなってから急に騒がれたという状況もあって、ソウル・ファンには複雑な思いを抱かせてきた曲だろうが、まだ進化の過程にあった26歳が自然に綴った表現として、ソウルフルな名曲群と同じように聴く者を惹き付ける何かがあるのは確かだ。彼は何を作り上げようとしていたのだろう? もし彼が生きていたら──〈モンタレー〉を観たロック批評家のジョン・ランドウいわく〈オーティス・レディングは、過去であり、現在であり、未来である〉──また違う未来が待ち構えていたことだけは確かだ。

『Pain In My Heart』 Volt/Atco/ワーナー(1963)
ひと声発しただけでブッ飛ばされる“These Arms Of Mine”をはじめ、往年のソウル・ナンバーもオリジナルも境目なく懐中に抱き込んでしまった驚異のファースト・アルバム。昂揚感と哀しげなフィーリングを同時に吐き出す歌声はすでに完璧!

『Sings Soul Ballads』 Volt/Atco(1965)
表題に反して特にバラード集というわけではないが、穏やかな展開のなかに激しい感情を滲ませたような“That's How Strong My Love Is”や“Come To Me”など、バラードの名品が多いのは確か。アップだとホーン・リフの冴えた“Mr. Pitiful”が抜群。

『Dictionary Of Soul』 Volt/Atco(1966)
寂しげなのに温かい“Fa-Fa-Fa-Fa-Fa(Sad Song)”で幕を開ける傑作。後半のガッタガッタ節が有名な“Try A Little Tenderness”、濃厚なブルース調の“Hawg For You”、ビートルズのそれが遠足に聴こえるほどの“Day Tripper”など、曲ごとの表情も多彩だ。

『Live In Europe』 Volt/Atco(1967)
67年3月に行われた英仏ツアーから10曲を収めた熱血ライヴ盤。吠えまくる“Shake”やホーンが小気味良い“Can't Turn You Loose”が最高。ちなみに後者の邦題は〈お前を離さない〉ってことで、ブルーハーツ『TRAIN TRAIN』では……(P117をチェック!)。

『The Dock Of The Bay』 Volt/Atlantic/ワーナー(1968)
死の3日前に録られ、没後に唯一の全米No.1ヒットとなった“(Sittin' On)The Dock Of The Bay”を含む遺作。当人の思い描いていた完成図にどこまで近いものなのかは不明ながら、力を抜いて歌いかけるオーティスの優しさが胸に迫る。

『Remember Me』 Stax/ビクター(1992)
没後20年以上を経て登場した未発表曲&テイク集。切々と歌うバラードの表題曲やコクのあるリズム・ナンバー“Trick Or Treat”など、お蔵入りになった理由がわからない名曲/名演/名唱揃いだ。〈Sittin' At The Dock~〉に聴こえる別テイクなども貴重。