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第4回――ヘロヘロな心

再発先生奇談

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2008/07/17   22:00
ソース
bounce 300号(2008年6月25日発行)
テキスト
文/内山田 百聞


続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!



私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシュー盤収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。そのあだ名を自分でもまんざら悪くないと思っているから始末に負えないのだが……。

そう、あれは現実だったのか、それとも白昼の夢だったのか。正午に赤羽で用事を済ませた私は、〈居酒屋れいら〉に行くにも早すぎる時間なため、所在なく町外れを散策していたのだが、気付くとどこまでもまっすぐに続く見知らぬ通りを歩いていた。少し先に古びたCD屋らしきものが見える。近づいてみると店の薄汚れた看板には〈フランキー・ヴァリ専門店〉と書かれていた。

んん!? ヴァリといえばビーチ・ボーイズと並ぶ白人コーラス・グループの最高峰、フォー・シーズンズのリード・ヴォーカルであり、ソロでもかの有名な“Can't Take My Eyes Off You”などをヒットさせたシンガーである。慌ててショウウィンドウを覗いてみると、そこには数枚のCDが陳列されていた。

おお、ソロ作品が2in1でリイシューされたのか……。

65~68年の間に録音された編集盤と68年作をまとめた『Solo/Timeless』(Phi-llips/Collector's Choice)は、前述の大ヒット曲をはじめとする魅惑的な大人のポップス満載の逸品。

75年作と76年作をまとめた『Close-Up/Valli』(Private Stock/Collector's Choice)は、DJ諸氏も悶絶の超絶グルーヴ“Swearin' To God”を収録したプレAOR風の逸品。

75年作と77年作をまとめた『Our Day Will Come/Lady Put The Light Out』(Private Stock/Collector's Choice)は、さらにメロウ・グルーヴ路線を推し進めた洒脱な逸品。

そして78年作と80年作をまとめた『Frankie Valli...Is The Word/Heaven Above Me』(Private Stock/Collector's Choice)は、全米1位を獲った“Grease”など華麗なディスコティークを聴かせる逸品。

加えて、親切なことにオールタイムのベスト・アルバム『Jersey's Best -The Very Best Of Frankie Valli & The Four Seasons』(Rhino)まで置かれているとは。しかし、専門店などあるわけが……ない。これはフランキー・ヴァリ好きの私が見た一時の夢なのか? いや、だが……。

 私は急激に目眩に襲われた。店から目を背けると、その先にはどこまでも果てしのない通りが続き、陽炎が、立ち並ぶ電柱をゆらゆらと海草のように揺らめかせていたのだった……。