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第4回――ヘロヘロな心

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2008/07/17   22:00
ソース
bounce 300号(2008年6月25日発行)
テキスト
文/北爪 啓之、冨田 明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。学生時代にストロークスと電撃的な邂逅を果たして以来、ロックンロールの熱病に犯され続けている。そんな僕が、就職のために北国から東京は北区に引っ越してきて、およそ4か月の月日が流れた。会社には徐々に慣れてきたけど、なぜだか一向に友達ができない! それどころか、密かに想いを寄せていた楓先輩にまで嫌われてしまうというありさま(前号参照)。なんで、なんで誰も僕のことをわかってくれないんだ! ヘアスタイルはストロークスのアルバート・ハモンドJr風だし、ファッションだってディオール・オムのエディ・スリマンに気に入られているジーズ・ニュー・ピューリタンズや、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトを参考にして、某smart推奨の〈タイトでロックなモテ系スタイル〉にキメているっていうのに! 僕は自暴自棄になり、今日も〈居酒屋れいら〉で酒をあおっていた。こんな日々がここ2か月ほど続いている。

ボンゾ「あーあー、梅割りをこぼすんじゃねーよ、このバカ阿智本! 今日もしおれたマーク・ボランみたいな頭をしやがって、なにを荒れてやがるんだか……」

阿智本「うるさい! そもそも、ボンゾさんが気持ちの悪いCDを僕に貸すから、楓先輩に嫌われちゃったんじゃないか! どうしてくれるんだよ!!」

ボンゾ「テメエがオンナにフラれたのは俺のせいでもザッパ先生の『Uncle Meat』のせいでもなくて、テメエ自身の問題だろうが! お前みたいな独りよがりの青二才は一生ロックを聴くな、バカ野郎!」

阿智本「な、なんだよ。60すぎのオヤジのくせして、子供ほど年齢の離れた僕に本気で怒ることないじゃないか……」

いつもどおり、白髪のオールバックにレイバンのサングラス姿のボンゾさんは、不機嫌そうな顔でなにかの炒めものを作っていた。ちなみに、この〈居酒屋れいら〉のメニューにはコンビーフを使った料理しかない。理由はわからないけど、尋ねたところで〈メンドクセェから〉とかテキトーなことを言われて、はぐらかされるだけだろう。食欲をそそる匂いが店内に立ちこめる。

ボンゾ「お前、さっきから酒ばっかり飲みやがって。店の売上げになんねぇからよ、ひとまずこれでも食え。コンビーフとキャベツの炒めものだ。酒の肴にはもってこいだし、メシのおかずにも最高だぞ」

阿智本「な、なんですか、急に。遠慮なくもらいますけど……」

……ん、これは美味い。キャベツの甘みとコンビーフの塩分が絶妙だ。なんだか家庭料理みたいな素朴な味で、そこがまたたまらないな~。ついついお酒も進んじゃう!

ボンゾ「いくらバカでも、一応客には違いないからな。まぁ、それはともかく今日はこれでも聴いてみろ! リンゴ・スターの代表作『Ringo』だ」

阿智本「リンゴって、あのビートルズのドラマーの?」

ソロ・アルバムなんて初めて聴いたな。でもまったくロックを感じない、ただのポップスだ。それに歌声がヘロッヘロじゃないか。これじゃまるで……。

ボンゾ「代表作にも関わらず、いまのお前みたいにヘロヘロだろ。このアルバムにはな、ジョン・レノンもポール・マッカートニーもジョージ・ハリスンもみんな楽曲を提供していて、ジャック・ニッチェやハリー・ニルソン、お前が髪型を真似しているマーク・ボランなどなど、錚々たるメンツが参加しているんだ」

阿智本「ビートルズのメンバー以外はよく知らないけど……ようするに、1人じゃ何もできない人ってこと?」

ボンゾ「だからお前はバカ野郎だっていうんだよ! 〈人徳〉こそがリンゴ最大の才能なんだ、どこかの誰かとは違ってな。聞けば、誰かさんはいまだに友達の1人もできないらしいじゃねえか。お前もウチにばっかり入り浸ってないで、ちったぁ外で友達でも作ってこい!」

阿智本「なんだよ、いつもいつも! 余計なお世話だっていってるじゃないか! もういい、今日は帰る!」

外に飛び出すと、雨が静かに降っていた。僕はリバティーンズの『Time For Heroes』を爆音で聴きながら、あてもなく駆け出していた。母さん、東京の雨はちょっとしょっぱいです……。