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第35回 ─ 敬老のソウル・ジャイアンツ

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2008/10/23   21:00
ソース
『bounce』 303号(2008/9/25)
テキスト
文/林 剛

若ぶったり円熟味を強調したりする必要もない、余裕で現役の巨人たち!!

 ソウル/ファンクにおける往年の名アーティストが、しばらく音沙汰のなかった人も含めて、次々と新作を出している。つまり、本連載で旧作を紹介してきたようなソウル・グレイツによる最新録音盤だ。しかも、そのクォリティーは総じて高い。ヴェテランの作品といえば、現役をアピールしようとする気持ちだけが先走って安易に流行の音を採り入れた結果、虚しさの漂う内容になるような例もかつては見受けられたものだが、近年は現シーンと付かず離れずの距離を保ちながら往年の雰囲気やグルーヴを醸し出した好作が多くなってきた。

 メジャー/インディーに関係なく、いい塩梅のヴェテラン作品が増えているのは、月日が経ち、若手からラヴコールを受けるなどして自分たちの過去を客観視できるようになったからでもあるのだろう。ルーツ一派と組んでハイ・サウンドを甦らせたアル・グリーンの最新作『Lay It Down』はまさにその好例で、全米チャートでも大成功を収めた。一方で、バーケイズなどは旧来のサザン・ソウルをやりながら現代サウスの音とも向き合って〈変わりゆく変わらぬもの〉を体現していたりするし、リオン・ウェアのように己の流儀を貫き通す人がいれば、LJ・レイノルズのように流行に左右されないゴスペル界に身を置くことで自分らしい歌を追求する人もいる。アプローチの仕方はさまざまだが、現行のR&Bが歌やメロディーといったソウルの根源的な部分に忠実であろうとしはじめたことで、ヴェテラン勢がいま活動しやすい状態にあることは確かだ。名門レーベルの復活や頻繁なリイシューも追い風になっているのかもしれない。

 もちろん全盛期の作品と比べれば、歌声やサウンドに不満を漏らしたくなる部分もあるだろう。だが、ジャケットに皺の増えた顔が写っていても、演じ手の魂が宿っている限り、それは時代や世代を超えて人々の心に響く。ソウル・ミュージックは、古い世代のための慰めでも、骨董品のようなものでもない。ひとえに熱くなりたい人のための音楽なのだ。