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第49回――後ろから前からアイズレー

アイズレー史の流れと、まず聴くべき名盤たち――(2)

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2011/02/18   13:45
更新
2011/02/18   13:45
ソース
bounce 328号 (2010年12月25日発行)
テキスト
文/林 剛、出嶌孝次

 

【3】転換期(80~82年)

 

『Live It Up』以来5作連続で定位置になっていたR&Bチャート首位を『Winner Takes All』で逃したこともバンド内に危機感をもたらしたのか、80年代を迎えるにあたって彼らも音楽性をアップデートすることになる。そうでなくても70年代に隆盛を誇ったソウル/ファンク系アクトの多くはより広い聴衆に向けて変容を迫られていたわけだが、アイズレーズがこの状況を上手く乗りきれたのには年少組の存在が大きかった。特に各種シンセに習熟したクリス・ジャスパーの柔軟なセンスは、ソウル感覚を洒脱に採り入れた同時代のAORや、より若い世代によるブラコン作品にも直結する瑞々しさをグループに持ち込んだはずだ。彼が旗を振った80年の『Go All The Way』でチャート首位を奪回すると、続くマイルドなAORタッチの『Grand Slam』ではドラマーのエヴェレット・コリンズら〈3+3〉以外のミュージシャンも動員してリズム面を強化&多様化。さらに『Inside You』はホーン隊やストリングスも導入するという野心的な作りとなった。また、T・ネックから送り出したブラッドストーンや、先述のコリンズらが結成したサンライズらの作品では裏方としての活動も盛んで、特に年少組の創作意欲が高まっていたことも窺い知れる。この前後に比べて不当に評価の低い時代だが、作品それぞれの多様な味わいは現代のリスナーの耳で真っ当に評価してほしい。*出嶌

 

『Go All The Way』 T-Neck/Epic/ソニー(1980)

80年代の幕開けを飾った本作は、クリス・ジャスパーが主導権を掌握。スロウ・バラードで初めてR&Bチャート1位を記録した“Don't Say Goodnight”など、ロナルドのファルセット多用も目立ち、作風はこれまで以上にメロウだ。アイズレー流ファンクをディスコ・マナーでキメた“Say You Will”、アーバンな“Here We Go Again”など快演だらけ。*林

『The Real Deal』 T-Neck/Epic/ソニー(1982)

80年代のメロウ路線をいったん断ち、70年代ファンクへの回帰をめざしたパワフルなアルバム。裏声の多用が続いていたロナルドもここでは豪快に歌い倒す。ただし、シンセ・ベースなどの導入でエレクトリックな感覚が加わり、ロック的なエッジも立てた感じは同時期のプリンス風でもある。ラテンやブルースにも接近し、実験的な面を見せた意欲作だ。*林

 

▼関連盤を紹介。

左から、アイズレー・ブラザーズの81年作『Grand Slam』『Inside You』(共にT-Neck/Epic/ソニー)、サンライズの82年作『Sunrize』(Boardwalk)

 

【4】3+3−3−1−1+2=??(83~92年)

 

顕在化していた〈3+3〉が〈3対3〉に発展するなか、A面をメイクラヴ系のスロウで固めたCBSとの契約満了作『Between The Sheets』は新たなアイズレーズ像を確立するヒットとなった。特に表題曲でTR-808を駆使して妖しく都会的なビートを組み上げたクリスのセンスは、以降も世紀を跨いでアイズレーズが再評価され続けるための礎になったと言える。が、音楽性の(世代の?)相違や待遇への不満を募らせたクリスとアーニー、マーヴィンは3人だけでCBSとの契約を更改し、アイズレー・ジャスパー・アイズレー名義でデビュー。移籍した兄たちは『Masterpiece』(86年)を発表するも、直後に長兄オーケリーが急逝、聖職を選んだルドルフも『Smooth Sailin'』(87年)を最後にグループを離れている。『Spend The Night』(89年)はついに実質的なロンのソロ作となるが、後に結婚するアンジェラ・ウィンブッシュの的確な制作手腕によってブランドは守られた。なお、アーニーとマーヴィンは90年代初頭にグループ復帰。クリスは、いまもマイペースに良質なソロ作を出し続けている。*出嶌

 

『Between The Sheets』 T-Neck/Epic/ソニー(1983)

メロウ・アイズレーの究極とも言える性愛ソングの表題曲で有名な、(CBS配給の)T・ネックでの最終作。シンセを操るクリスは歌でも活躍し、後にアンジェラ・ウィンブッシュらに再生されていくセクシーなバラードの雛型を作り上げた。後半には社会的メッセージを込めたヘヴィー・ファンクも登場。打ち込みと生楽器が合体したグルーヴに溺れる快楽盤だ。*林

 

▼関連盤を紹介。

左から、アイズレー・ジャスパー・アイズレーの3in2『Broadway's Closer To Sunset Blvd./Caravan Of Love/Different Drummer』(Superbird)、クリス・ジャスパーの2007年作『Invincible』(Gold City)、アイズレー・ブラザーズの85年作『Masterpiece』、87年作『Smooth Sailin'』(共にWarner Bros.)

 

【5】復活、独自の高みへ(95年~)

 

昨今の〈エロいアイズレー〉像が確立されたのは90年代に入ってからである。R・ケリーのような後進が敬意を表し、並行して“Between The Sheets”などのサンプリングが急増することで、アーバンでメロウなアイコンという評価軸が生まれるなか、そのイメージに後押しされる形で登場した『Mission To Please』(96年)は、ヴェテラン然としつつあったアイズレーズをもう一度シーンの前線に引き戻す快作となった。マーヴィンは同作を最後に引退(2010年に逝去)するが、ロンとアーニーは堅調に歩みを進め、2003年の『Body Kiss』では実に『The Heat Is On』以来18年ぶりに全米1位をマーク。グループは何度目かの黄金時代を……ってところでロンの本文へ続きます。*出嶌

 

▼関連盤を紹介。

左から、アイズレー・ブラザーズの96年作『Mission To Please』(T-Neck/Island)、2001年作『Eternal』、2003年作『Body Kiss』(共にT-Neck/Dreamworks)

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