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第49回――後ろから前からアイズレー

RON ISLEY a.k.a. Mr. I

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2011/02/18   13:45
更新
2011/02/18   13:45
ソース
bounce 328号 (2010年12月25日発行)
テキスト
文/林 剛

 

御年69、キャリア50年……ついに初のソロ作を発表!

 

 

いったいロナルド・アイズレーという男には何度黄金期が訪れるのだろう。ロナルド率いるアイズレー・ブラザーズは、ここ10年ほどアーニーとのデュオ・ユニットと化していたが、2000年代半ば以降も絶好調だった。2006年の『Baby Makin' Music』では得意のベッドルーム・ソングでリスナーをロマンティックな気分に導き、少子化対策に一役買った(?)ことも記憶に新しい。そして、ロナルドみずからも2005年に結婚(再婚)したキャンディ・ジョンソン(ロナルドの肝煎りでデビューした女性デュオ、JSの片割れ)と子作りに励み、2007年には息子ロンJrを儲けている。そうした幸せな気分の表れなのか、2007年にはアイズレー・ブラザーズ初となるクリスマス盤『I'll Be Home For Christmas』も発表。グループでは〈Mr. Biggs〉というマフィアの首領的なキャラを演じてきたロナルドであったが、バート・バカラックとの共演盤『Here I Am』(2003年)を出した頃からは万人受けするバラディアーとしてのイメージを強め、故フランク・シナトラのようなアメリカを代表する大御所歌手としての名声を手に入れつつあった。

ところが、そうしたクリーンなイメージを剥ぎ取られるように脱税疑惑が浮上。結果、有罪判決を受けたロナルドは約3年の懲役(と追徴課税の支払い)が言い渡される。裏を返せば、それまでいかに多くのヒットを飛ばし、大金を手にしてきたかということだが、そんなこんなでロナルドは2007年から3年余りを塀の中で過ごすことに。もっとも、その間には彼が(懲役前に?)客演したUGK“The Pimp & The Bun”などが世に出ていたせいか、さほど不在感はなかった。

実は優雅だったとも聞く刑務所生活を終えてシャバに復帰したのは2010年4月。出所したとたん、6月には長年糖尿病を患ってきた弟マーヴィンの他界という不幸に直面するが、ロナルドは復帰に向けて着々と新作のレコーディングを進めていた。そうして完成したのが、59年のRCAとの契約から(およそ)50年を記念して発表された初のソロ名義アルバム『Mr. I』である。IはIsleyのI。俺こそがアイズレー・ブラザーズの柱だ(った)とでも言わんばかりの自負が窺えるが、そう銘打つだけのことはある力作と言っていいだろう。グレッグ・カーティスやトリッキー・ステュワートらによる無理のない現行マナーのミディアム~スロウは総じて出来が良く、ロナルドの声も、経年による衰えは若干あるものの、あの滑らかで甘美なファルセットは健在。ラ~ラララ~♪という十八番のスキャットが飛び出すスロウ・バラード“What I Miss The Most”を聴けば、誰もが〈お帰り、ロナルド!〉と言いたくなるに違いない。

共演も話題で、T.I.との“Put Your Money On Me”は元受刑者同士のある種意味深なコラボだし、アレサ・フランクリン(過去にアイズレーの“It's Your Thing”をカヴァーしたこともある)とのデュエットでは、両者共に縁の深いキャロル・キング作の“You've Got A Friend”をしみじみと歌ってみせる。同じリヴィング・レジェンドであるアレサが友人代表としてその復活を出迎えるなんて美しい話ではないか。

そして、音楽業界も祝福の嵐だ。先日行われた〈Soul Train Music Awards 2010〉でも新旧の男性R&Bシンガーがアイズレーの名曲を歌ってロナルドの功績を讃えたばかり。そこではロナルド本人もステージに上がって熱唱。そう、彼はいまなお現役なのだ。ロナルドが歌い続ける限り、アイズレー・ブラザーズの歴史にピリオドは打たれないのである。

 

▼関連盤を紹介。

左から、アイズレー・ブラザーズの2006年作『Baby Makin' Music』、2007年のクリスマス盤『I'll Be Home For Christmas』(共にDef Soul Classics/Def Jam)、JSの2003年作『Ice Cream』、ロナルド・アイズレー・ミーツ・バート・バカラック名義の2003年作『Here I Am』(共にT-Neck/Dreamworks)

 

▼『Mr. I』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、T.I.のニュー・アルバム『No Mercy』(Grand Hustle/Atlantic /ワーナー)、アレサ・フランクリンの編集盤『Jewels In The Crown』(Arista)、タンクのニュー・アルバム『Now Or Never』(Atlantic)

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