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YPPAH

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NEW OPUSコラム
公開
2012/02/15   00:00
更新
2012/02/15   00:00
ソース
bounce 341号(2012年2月25日発行号)
テキスト
文/青木正之


まどろみの彼方から、3度目の幸福が降りてきた



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2006年の初作『You Are Beautiful At All Times』にてシューゲイザー〜エレクトロニカ〜ブレイクビーツのリスナーをまとめて惹き付けるジャンル越境サウンドを展開し、リリース元のニンジャ・チューンもびっくりの大反響を巻き起こした、イパことジョー・コラレス。レーベルきっての異端児とも呼ばれる彼の独自性は、イパを名乗る以前の特異なキャリア抜きには成立しえないものだろう。そのスタートこそロック・バンドの一員というごくありふれたものだったが、10代後半からバンドと並行してDJにも興味を持ちはじめた彼は、トゥルースなるターンテーブリスト集団のメンバーとして、その界隈ではちょっとした有名人になるレヴェルまで腕を磨いてきた。そんな異端児の評価を決定付けたのが、2009年のセカンド・アルバム『They Know What Ghost Know』である。バンド・サウンド的な質感に比重を傾け、シューゲイズなギターを色濃く表出させた同作の音世界は、かのマイ・ブラディ・ヴァレンタインを引き合いに出して語られることも多く、そのスジの熱心なファンたちをも歓喜させることに成功している。それから約3年、待ち焦がれた新作『Eighty One』がついに到着した。

今回の作品は彼の生活環境の変化をフィードバックしたものだそうで、カリフォルニアのロングビーチに住まいを移したことや、デモの制作途中に足繁く通ったメキシコでのサーフィン体験も影響して、風通しの良い明るいトーンとゆったりとしたレイドバックな空気に支配されている。煌くメロディーは太陽に照らされて輝く波のようだし、リヴァーブのかかったシンセや幽玄に溶けていく歌声はビーチでまどろんでいる時のまったり感を想起させるものだ。そして、壮大なサウンドスケープは海の存在そのものといえるだろう。ノスタルジックな意匠やビートの運ぶ昂揚感も過去最高で、これまで以上に、アーティスト名の由来でもある〈HAPPY〉な心持ちへと誘ってくれるはずだ。



▼イパのニュー・アルバム『Eighty One』(Ninja Tune/BEAT)

▼イパのアルバム。

左から、2006年作『You Are Beautiful At All Times』、2009年作『They Know What Ghost Know』(共にNinja Tune)