衝撃の作曲家、第2弾作品集は美しさと荘厳が重なり合う弦楽作品集
作者を伏せ曲だけで判断した時、はたして何人の人が日本人の、まして現代を生きる作曲家の手による作品と見抜く事が可能であろうか? 佐村河内守は、一聴して氏の作品ということがわかる数少ない作曲家のひとりである。本CDに収められた作品のクオリティーは高く、そしてクラシック作品としての普遍性に溢れている。またそのレベルを現代音楽というカテゴラリーではなく、あくまでメロディを持った純音楽というスタイルで完遂している点も特筆すべき点と思う。
題目にもなっている『シャコンヌ』は、所謂ヴァイオリンの聖典、J・S・バッハ作《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》に真正面から向かい合うかのような作風で、ヴァイオリンの響きと奏法を十二分に生かしきる。その音色は深く、悲しみと祈りを織り交ぜながら緩やかに広がってゆく。バッハ以後犯すべからずとされ、事実傑作の少なかったヴァイオリン・ソロの作品に傑作が一つ加わったことは間違い無い。
2曲目は全曲と変わって簡素ながらも美しく聴き応えのある音作りが魅力の曲。とても少女のために書かれた曲とは思えない充実度だ。
更に進むとそこには2曲の弦楽四重奏が鎮座する。音が始まった瞬間に氏の音とは思えない不協和音から始まり、やがて12音階が支配する幾何学な和音の世界に迷い込む。凄いのは12音階という不協を是とする音階に有って〈不愉快が生まれない〉ように計算しつくされた音の運び方だろう。メロディストとしても名を馳せる氏には珍しい作風を持った第1番が終わると、それまで封印していたメロディが一気に噴出する、第2番。現代の作風から最もかけ離れた感情の世界を聴く事ができよう。
ここまできてだが、彼の作風を語る上で必ず取り上げられている〈生い立ちや作曲動機〉を省いた事にお気付きだろうか? これだけの曲だ。まずは曲を聴き判断してほしい。その願いからである。
最後に。
今回のCD発売に際し、大谷康子女史をはじめとした日本を代表する奏者の方々が曲の情感を生かした丁寧な表現をもって演奏してくれた。曲への共感をひしと感じる素晴らしい演奏を残してくれた事に謝辞を述べたい。感謝、ただ感謝。