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日本ジャズ史のワンダーランドへ──KING VINTAGE JAZZ COLLECTOR'S EDITION

日本ジャズ史のワンダーランドへ──KING VINTAGE JAZZ COLLECTOR'S EDITION(3)

公開
2012/08/30   12:57
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
文/青木和富

白木秀雄の登場とその後

白木秀雄の登場は、当時のアート・ブレイキーのファンキー・ジャズ、ウェスト・コースト・ジャズ、そして、ボサノヴァと当時のハード・バップ・ジャズの人気と重なり、スイングのダンス・ミュージックからモダン・ジャズの世界に移っていった。とはいえ、モダン・ジャズがヒットしたのはホンの一瞬と言っていい。この時代はアメリカン・ポップスの全盛期で、白木をマネージメントしていた渡辺プロダクションは、ジャズと同時にこうした日本のポップ・シンガーを育てることで黄金時代を築くことになる。渡辺プロダクションは、当時の大人気コメディ・グループ、ハナ肇とクレージー・キャッツを擁していたが、言うまでもなくこのグループは、メンバーの植木等らがジャズ・ミュージシャンの人気投票で常に上位だったように、その土台にはジャズがしっかりあった。象徴的なことを言えば、そのクレージー・キャッツからその後継グループ、ザ・ドリフターズへと人気が移行したとき、ポピュラー音楽としての日本のジャズもまた檜舞台から降りたと言っていい。

このキングレコードのシリーズでも、その分岐がはっきりしている。録音年で言えば、1960年代までがスイングからハード・バップまでの4ビート・ジャズ文化の記録で、その背後にはエンタテインメントとしてのジャズといったものがある。ノスタルジックなジャズの世界といえるかもしれない。それと比べると70年代以後は、ジャズはエンタテインメントというよりは芸術的な意味合いを濃くし、もしエンタテインメントという意味があるとすれば、それはソウルやロックに取って代わられている。むろん、それが時代の趨勢であり、ジャズも新しい時代を迎えたと言った方がいい。このシリーズの70年代以後の記録にいわゆるフュージョンが少ないのは残念だが、その代わりに、富樫雅彦や山下洋輔らのフリー系のアルバムがよみがえっている。これは意外かも知れないが、フリーの新しいファンが多いことによるだろう。また、この時代のジャズの復刻が4ビートの初CD化が中心なのは、やはり4ビート・ファンの根強さを物語る。

とはいえ、このシリーズの真骨頂は、やはり60年代までと言っていいと思う。華やかなダンス・ホールの余韻を残すこの時代のジャズは、今時の言葉に言い換えるとラウンジ・ミュージックにつながるものもあるが、どこか企画先行、アイデア先行のアルバム作りののんびりとした空気を携えて、現代とは違う異世界にぼくたちを誘う。