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Ryan Truesdell『Centennial─Newly Discovered Works of Gil Evans』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/03/25   12:05
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:常盤武彦

Gil is Still Alive!  膨大な未録音作がいま、時を超えてよみがえる!

2012年は、稀代の作編曲家のギル・エヴァンスの生誕100周年だった。マイルス・デイヴィスとの長年のコラボレーションで広く知られているが、その60年を越すキャリアは、いつの時代も先進性に満ちており、また膨大な知られざる作品群を遺している。

ギル・エヴァンスの音楽を探究し続けている若手作編曲家のライアン・ツルースデルは、2010年頃にプロダクション・アシスタントを務めていた師匠でエヴァンス最後の愛弟子マリア・シュナイダーから、ギル・エヴァンスの未亡人アニータ・エヴァンスと、息子のマイルスとノアを紹介された。エヴァンス・ファミリーの信頼を獲たツルースデルは、その遺品を調査し、40年代から80年代の間に書かれた40作以上の未録音曲を発見した。シュナイダーらの後押しで、ツルースデルは2012年のギル・エヴァンス生誕100周年に向けて、未録音作品を世に問う「The Gil Evans Centennial Project」を立ち上げた。マリア・シュナイダー・オーケストラのピック・アップ・メンバーらのNYのトップ・プレイヤーを集めて、クロード・ソーンヒル楽団時代の1940年代の諸作から70年代初頭の作品まで10曲の録音を敢行し、昨年のエヴァンスの誕生日5月13日にリリースした。特筆すべきは、19分を越すメドレーのM9。1963年のマイルス・デイヴィスとの『クワイエット・ナイト』や『ギル・エヴァンスの個性と発展』に《Time of the Barracudas》のモチーフで登場し、1974年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルのライヴ盤にも聴くことが出来るこのメロディの壮大な全体像が、初めて明らかになったことだ。今まで知られていた作品の背景に、まだこのような豊かな音楽の鉱脈が眠っていたとは、驚異の一言に尽きる。ツルースデルは、このギル・エヴァンス再発掘プロジェクトの継続を計画している。

本作が米音楽界に与えた衝撃は大きく、ツルースデルはデビュー作で、通販とダウンロード販売のみだったにもかかわらず、本年度グラミー賞では3部門にノミネートされる。1947年にクロード・ソーンヒル・オーケストラへ提供し、同グループのエンディング・テーマだったM4が、ベスト・インストルメント・アレンジメント部門を受賞した。66年の時を超えて、ギル・エヴァンス・ミュージックは色褪せず、燦然と輝いている。

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