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第66回――リアル・ベンE・キング

とはいえ偉大すぎるスタンド・バイ・ミー

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2013/04/24   00:00
ソース
bounce 354号(2013年4月25日発行)
テキスト
文/出嶌孝次


最近も福原美穂らが歌うプレイング・フォー・チェンジのヴァージョンがTVCMで使われていたりするように、誰が歌っても構わないほどのスタンダードになっている“Stand By Me”。本文にもある通りベンE本人のオリジナルがリヴァイヴァルした80年代以降、急激に定番化が進んだようにも思えるが、実際はリリースの数年後からジーン・チャンドラーやオーティス・レディング、カシアス・クレイ(モハメド・アリである)、ウォーカー・ブラザーズらによるカヴァー・ラッシュが進行していた。

そんななかで大きな節目となったのは日本でも有名なジョン・レノンのヴァージョンだろう。ギターのストロークをアクセントにしたこのあたりからカヴァーの波はソウルの枠を越えて広がり、ライ・クーダー、マーク・ボラン(没後に発表)、そしてカントリー・ヒットになったビリー・マクギリーらのヴァージョンが世に出される。80年代に入るとカール・カールトンやモーリス・ホワイトらブラコンの文脈による解釈も生まれてくるが、それらのいずれもが先述のリヴァイヴァルより先に出ていることにも留意したい。特に立体的なコーラス・ワークで組み立てられたモーリスのヴァージョンは超えられない原曲を別の角度から超えんとした素晴らしい仕上がりだ。その後はペニーワイズらのヴァージョンも出てくるものの、流石にノスタルジーの産物として機能しすぎたのか、しばらくリサイクルは控えめになっていく。

そんな沈黙(?)を破ったのがショーン・キングストンの“Beautiful Girls”だったのは言わずもがな。これは原曲にあるストリングスなどのフレーズなどを歌メロに引用しながらトースティングした技アリのリサイクルで、オリジナルも達成できなかった全米1位を記録した。リスナーのノスタルジー周期も一巡したのか、それに先駆けたトレイシー・チャップマンやアーロン・ネヴィル、シールらのじっくり系カヴァーも手伝って、“Stand By Me”は近年また新たな輝きを取り戻したようだ。最近はプエルトリコのプリンス・ロイスが大ヒットさせたり、ボリウッド映画「Ra One」の劇中でもカヴァーされたり、その広がりもワールドワイドだ。

なお、それに比べると地味ではあるが、レッド・ツェッペリンが“We're Gonna Groove”としてカヴァーした“Groovin'”や、ヤングMCらのネタ使いした“Supernatural Thing”、マース&9thワンダーの用いた“Let Me Live In Your Life”などもグッド・リサイクルの源泉であることは強調しておこう。



▼関連盤を紹介

左から、プレイング・フォー・チェンジの2009年作『Songs Around The World』(Hear Music)、ジョン・レノンの75年作『Rock 'n' Roll』(Apple)、モーリス・ホワイトの85年作『Maurice White』(Columbia)、ショーン・キングストンの2007年作『Sean KIngston』(Beluga Heights/eOne/Epic)、シールの2008年作『Soul』(143/Warner Bros.)、プリンス・ロイスの2009年作『Prince Royce』(Top Stop)、ヴィシャル&シェカールによる2011年のサントラ『Ra One』(Eros)、レッド・ツェッペリンの82年作『Coda』(Swan Song/Atlantic)、ヤングMCの89年作『Stone Cold Rhymin'』(Delicious Vinyl)、マース& 9thワンダーの2006年作『Murray's Revenge』(Record Collection)