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上間綾乃

上間綾乃(2)

公開
2013/09/05   21:33
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text : 栗本斉(旅とリズム)

沖縄との距離

加えて、CHAGE&ASKAなどのサポートでも知られる澤近泰輔を中心としたサウンド・プロダクションも、かなりのインパクトを与えている。《里よ》におけるアグレッシヴなバンドサウンドは、いわゆる沖縄音楽のカテゴリを越えた歌謡ロック的なアプローチになっているし、アルバムタイトル曲《ニライカナイ》には、島の音楽というよりは大陸的な広大なイメージを喚起させるスケール感を宿している。もちろん、前作のおだやかな印象を継承するかのように、川江美奈子が手がけた《ゆらりゆらら」やシンプルにピアノのみをバックに歌うスローナンバー《あなたのもとへ》などもセレクトされている。武満徹の《明日ハ晴レカナ、曇リカナ》といったセレクトには、少女の面影のような可憐さも感じられるだろう。しかし、アルバムトータルでみれば、前作のアコースティックでヒーリング的な印象とはまったく正反対で、オリエンタル・ロックとでも名付けたくなるようなインパクトの強いハードなサウンドが全体を支配しているのだ。そして、そのギラギラとした音の上で上間のヴォーカルも、ただならぬ気迫をもって聞こえてくる。

その迫力は、唄者としての本領を発揮すべき民謡ナンバーにも表れている。《ヒヤミカチ節》ではポーグスあたりのアイリッシュパンクを思わせる雰囲気を持っており、いわゆる民謡のイメージとは一線を画しているし、根岸孝旨がアレンジを施した《新川大漁節》にいたっては、レディオヘッドを彷彿とさせるヘヴィなギターリフでグイグイと攻めてくる。民謡を取り上げながらも、彼女が本来得意とするトラディショナルなスタイルとはアプローチがまったく違うだけでなく、「沖縄音楽」に「懐かしさ」や「癒し」を期待するリスナーを挑発しているのだ。

しかし、こういったアプローチは、たんにやり過ぎだという一言で片付けることが出来ないほどの異彩を放っている。思えば、70年代初頭から続く沖縄のロックやポップスのシーンも、常に沖縄らしさとの距離感に悩み続けていた。民謡であろうとハードロックであろうと、そしてウチナーグチであろうと標準語であろうと、沖縄らしさをどのように生かし、どのように切り捨てるのか。その試行錯誤を経て、ようやく沖縄の音楽シーンはここまで成長してきた。そんな歴史を経て、安定期に入った今は、豊かな音楽シーンが広がっている。その一方で、刺激的な作品が生まれにくくなっているのも事実だ。そして、上間は現状のぬるま湯に浸かることを選ばなかった。少し大げさかもしれないが、この『ニライカナイ』には、これまでの沖縄発信型ポップスに対するリスペクトとアンチテーゼが混在し、もがきながら出口を探しているように感じられるのだ。

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