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インタビュー

MASS OF THE FERMENTING DREGS


  約1年ぶりとなるニュー・アルバム『ワールドイズユアーズ』が、リリースと同時に各インディー・チャートで軒並みTOP5入りの大ヒット。いまさらMASS OF THE FERMENTING DREGS(以下マスドレ)のカッコ良さを力説したところですでに答えは出ているのだが、〈そもそもマスドレとは?〉についてもう一度復習しておくことに意味はあるだろう。

「結成当初は10代特有の無敵さがあって、〈私たちやったら何でもできるよな!〉って熱く夢を語り合ってました。〈出会ったのは運命や!〉みたいな。ほんと暑苦しいんですよ。いまもやけど(笑)」(宮本菜津子)。

 メンバーの音楽的な共通点の中心にあったのはhideとZilchで、他にマリリン・マンソンやニルヴァーナなどヘヴィーでダークな音楽に影響を受けていたバンド初期を、宮本は「10代の妙に沸々としたエネルギーをどこに発散していいのかわからない感じ」と表現する。

「影響されているという感覚じゃなくて、聴いてるものがそのまま出てきた感じ。メジャー・コードの曲が1曲もなかった(笑)。いまとはだいぶ違うかな」(宮本)。

 そんな時期を抜け出して、宮本いわく「開かれた音楽」を志向した2006年の自主制作盤『kirametal』を転機に、バンドは劇的に加速を始める。2007年の〈フジロック〉では正式音源がないまま〈ROOKIE A GO-GO〉へ出演し、2008年にはデイヴ・フリッドマンのプロデュース曲を含むファースト・アルバムをリリース。くるりの岸田繁や9mm Parabellum Bulletなど、マスドレを熱烈に支持する先輩や仲間たちの声も強い追い風となった。『ワールドイズユアーズ』でプロデュースを務めた中尾憲太郎(SLOTH LOVE CHUNKS、元ナンバーガール)もその一人だ。

「憲ちゃんも、いまのドラムの吉野(功)さんも含めて、みんながすごいマスドレを好きなんですよ。各々が〈どうしたらもっと良くなるか?〉ということを考えて、曲をちゃんと見ながらできましたね。音に対する向き合い方が、ファーストよりももっとできるようになったと思います」(宮本)。

「満足はしてるんですよ。でもファーストとあきらかに違うのは、満足したうえでまだやりたいことがあるということ。早く次に行きたい感じです」(石本知恵美)。

 痛快な高速8ビートが、表になったり裏返ったりとうねりながら突き進んでいく冒頭曲“このスピードの先へ”の圧倒的な爽快感と、ラスト“ワールドイズユアーズ”の開放感溢れる明るいメロディーに、いまのマスドレの無敵な好調さがよく表れている。宮本の声質はキュートでガーリーなのに、歌いっぷりはタフで骨太という独特な存在感は、ロック好きのみならず幅広いリスナーの耳も捉えるだろう。かつてのナンバーガールを思わせる、激しい祭り太鼓のようなリフと切れ味鋭いギターが絡み合う“かくいうもの”をはじめ、オルタナティヴ色の濃い中盤の4曲は、よりハードでヘヴィーなものを求めるロック・ファンの期待を裏切らない。「ライヴハウスの人に〈ブッキングしにくい〉ってよく言われてました」(宮本)と笑いつつ、みずからのジャンルレスな音楽性を素直に楽しめる強さがこのバンドにはある。

「こだわりがあるとすれば、嬉しいとか楽しいとか悲しいとか幸せとか、ポジティヴもネガティヴも素直に出したいということ。そういうオープンな音楽をやりたいんです」(石本)。

「初期衝動や無謀さは忘れたくないですね。私は入り口がhideさんだったから、それを忘れそうになるとhideさんやZilchの曲を聴くんですよ。“ever free”を聴くと、遅刻ばかりしてた高校の頃、いつもあの曲を聴いてから〈よし、行こ〉って感じだったのを思い出します。それぐらいのものであってほしいですよね、音楽って。BGMとかじゃなくて、大事なものを思い起こさせるものであってほしいって、最近すごく考えます。自分が10代の時に音楽をどうして聴いてたか、ライヴをどういう気持ちで観に行ってたかというと、あり得ないことを期待していたから、そこに。マスドレもそういうものでありたいな~と思います。そうなりたい!」(宮本)。

「そうなりたい!」(石本)。

PROFILE

MASS OF THE FERMENTING DREGS
宮本菜津子(ベース/ヴォーカル)、石本知恵美(ギター)から成る2人組。2002年にドラマーを含む3人組として神戸で結成される。2006年に自主制作盤『kirametal』をリリースし、東京でもライヴ活動を開始。翌2007年には〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉へ出演して注目を集める。同年11月から現在の編成になり、以降は吉野功(WORD)がサポート・メンバーとして参加。2008年にデイヴ・フリッドマンのプロデュース曲も収録したファースト・アルバム『MASS OF THE FERMENTING DREGS』を発表し、〈サマソニ〉〈RUSH BALL〉など数多くの夏フェスに出演して話題となる。このたびセカンド・アルバム『ワールドイズユアーズ』(AVOCADO)をリリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年02月26日 12:00

更新: 2009年02月26日 17:36

ソース: 『bounce』 307号(2009/2/25)

文/宮本 英夫